若者論を研究するブログ

打ち捨てられた知性の墓場

MENU

「確率」と「確立」について

今の子は「確率」と「確立」の違いが分からない?

驚き桃の木山椒の木である。「確率」と「確立」なんて超が付くほど典型的なあるある誤変換だろ…と思っていたのだが反応を見るにこれを「混同している」「間違って覚えている」と認識している人が相当数いて驚いてしまった。ちなみに人間の脳の漢字変換システムはMS-IMEと大して変わらないので、ネットかリアルかを問わず発生する間違いである。最古の事例をGoogle Booksで簡単に確認すると、1956年の北海道大学文学部紀要第5号に「確率」と表記すべきところ「確立」としている例が見られた(しかも2回)。

YouTubeと読書離れが原因?

人間の認知システムとは恐ろしく単純なもので、「日がな一日スマホYouTubeを眺めている子供」というイメージを本気で信じている人は多いかもしれないが、これは事実ではない。OECDPISA調査でも確認されている通り、日本の子供のインターネット利用時間は世界最低水準であり、総務省が実施した「令和元年度情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査」によれば、10代のテレビ視聴時間と動画投稿・共有サイトの利用時間に殆ど差は無い(それぞれ109分, 115分)。

読書離れについてはさらに実態が無い。全国学図書館協議会毎日新聞が1954年から実施している「学校読書調査」では、2000年代以降に児童・生徒の読書率が大幅に増加しており、この20年間はほぼ高止まりの状態にある。読書離れ(大学生)の根拠として引用されることが多い「学生生活実態調査」では、当然ながら大学進学率の上昇等は考慮されていない。加えて、同調査では読書時間とスマホ時間に関連は無かったことが報告されている。

また、総務省が実施している「社会生活基本調査」では20年前と比較して大学生の1日当たり平均学業時間は50分以上増加しているため、勉強が忙しくて読書する時間が取れない(そもそも読書が勉強のためだとすれば本分に立ち返ったともいえる)と考えた方がまだしも合理的だと思うのだが、この至って常識的な考察はネットでも現実でもまずお目にかからない。20年以上前は読書離れに限らずあらゆる事象が"子供の勉強疲れ"や"受験戦争"と安易に関連付けられていたことを思えば世間というのは本当にテキトーなものである。

間違いも増えたが正解も増えた?

たとえば「なろう小説」の流行を嘆く人が近年小説を読む子供が大幅に増加した事実を知らずにお粗末な読者分析をうっかり披露してしまうように、ネットやYouTubeによって誤変換が増えたという事実(ということにしておく)から直ちに「今の子は漢字もろくに扱えない」という結論を導いてしまう事例が後を絶たない。が、これは論理の飛躍である。今の若者が触れる文字情報の量は過去の世代と比較して大幅に増加している可能性があるからだ。

たとえば、上にも挙げた「情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査」では年代別・メディア別・利用目的別の利用時間が調べられているが、令和元年度調査の10代と50代を比較すると、ネットの総利用時間(並行利用含む・休日)は10代が316分、50代が115分、その内ネット動画(VOD含む)とネット通話を除いた利用時間はそれぞれ174分、92分となっている。ちなみに、20, 30, 40代の利用時間はそれぞれ186分, 117分, 77分である。

動画サイトを除くインターネットの大半が文字情報をベースとしていることを考えれば、ネット利用によって語彙の総量が増えると考えるのは決して不合理ではない。そして、文字ベースのインターネット利用時間の長い若年層ほど獲得する語彙が増えると考えるのは、少なくともYouTubeのせいで誤変換が増えたという主張よりは幾分かマシな考えだろう。

日本語能力の向上にIT機器やインターネットが寄与するのは、単にその文字情報量の多さによるものばかりではないと考えられる。たとえば、文化庁の「平成21年度国語に関する世論調査」では、「漢字が読めないときの調べる手段」という問いに対し、20代は「本の形になっている辞書」が15.5%, 「携帯の漢字変換」が43.1%, 「インターネット上の辞書」が29.3%となっているのに対し, 60代以上ではそれぞれ32.7%, 8.6%, 4.5%となっている。

一方、「調べない」は20代が24.1%であるのに対し、60代以上では47.2%となっている。携帯の漢字変換やインターネット上の辞書の方が簡便な為に利用率が高まる、というのはやや皮相な見方だと思うが、少なくともそれに矛盾しない結果だ。ちなみに、学校教育で教えられる必修漢字の量も881字(1948年)→996字(1968年)→1006字(1989年)→1026字(2017年)と戦後順調に増え続けているのだが、これを根拠として日本人の漢字能力の向上を主張する人がいないのは不思議な事である。

何故"間違った認識"が生じるのか

確率と確立を混同している若者が存在しているかは分からないが(恐らく一人はいるだろう)、少なくとも「確率と確立を混同している若者が存在していると信じている人」がいるのは直ちに観測可能な事実だ。これは若者論に限らずあらゆる言説分析に通底する視点であり、不確かな事実に基づいて妄想を展開するよりも、まず確かな事実に基づいて分析を進めるのが健全な知性のあり様というものである。

ところで、元のTogetterまとめやはてブの反応を見ていると、意外にも「読書離れ」を原因として挙げている人が少ないことに気付く。つまり、読書習慣がYouTubeの視聴に取って代わられたという主張は存外に少なく、それよりも漫画やテレビがYouTubeに置き換えられたという主張の方が多い。これは一体何を意味しているのか。単に読書よりも漫画やテレビの方がYouTubeに近い性質を持っているから、という単純な説明でも良いのだが、ここでは敢えて一つ捻った仮説、もとい妄想を提示してみたい。

読書離れの末路

最近の子供の発育が良いという事実は無いにもかかわらず「最近の女子高生は発育が良くてけしからん」とほざく性欲丸出しのおっさんがいたりテレビの長時間視聴により睡眠時間と寿命を削りながら「最近の若者はスマホばかりで睡眠不足だ」と主張する高齢者がいるように、若者論はその対象となる若者よりも、むしろそれを語る側の実態を浮き彫りにすることが多い。もしかすると、YouTubeの隆盛が読書よりもテレビや漫画との比較で語られることが多いのは、今の中年世代が若者だった頃に読書習慣を持っていなかったことの反映かもしれない。

たとえば、若者の読書離れを巡る議論では「読書習慣のある人ほど若者の読書離れを信じやすい」という指摘が度々なされており(水野 1980, 清水 2015)、これはある程度実証的にも示されている(Protzko & Schooler 2019)。そこで仮に、読書習慣の代わりに漫画やテレビにばかり親しんでいた人がいるとするならば、恐らくこの人は読書離れよりもむしろ漫画やテレビ離れを強く信じると予想することができる。近年の読書離れ言説は、書籍はおろか「漫画すら」「映画の字幕すら」読めないという主張が増えているが、これは若者の劣化ではなく、語る側の劣化を示しているのかもしれない。

以下のグラフは、学校読書調査による小中高生の不読率の長期推移である。2000年代以降に子供の読書率が大幅に増加したことは既に述べたが、この事実と同様に知られていないのは、80-90年代には実際に読書離れが進行していたという事実である。面白いことに、中高生の読書離れがピークに達した1997年は出版部数・売上のピークでもあり、以降、出版界の動向と子供の読書率は見事に負の相関を示している。

f:id:HaJK334:20210314112013p:plain

また、上述の「社会生活基本調査」でも、学生の平均学業時間は96年調査・01年調査が最低となっており、学業を含む社会生活を営む上で義務的な性格の強い「二次活動時間」は01年調査が最低、それら以外の活動で各人の自由時間における「三次活動時間」は01年調査が最高の数値を示している。16年調査と比較すると、10代後半(通学者)の二次活動時間(一日当たり)は46分増加し、三次活動時間は49分減少した。有体に言ってしまえば、20年前の学生が遊んでいた時間を今の学生は勉学の時間に充てているということである。

まとめ

以上、近年の"文字離れ"に関する議論の中で混乱が生じやすい部分について整理を試みた。第一に、一般に思われているほど子供のYouTube視聴時間は長くはなく、テレビ視聴時間と同程度である。また、"読書離れ"には実態がない。第二に、誤変換や誤読の増加は直ちに日本語能力の低下と結びつけられやすいが、これはIT機器やインターネットが日本語能力の向上に寄与する側面を無視している。第三に、近年若者の読書離れ言説が"劣化"しているのは、若者の劣化を示しているのではなく、それを語る側の劣化を示しているのかもしれない。意見反論お気持ち絶賛募集中である。

 

引用・参考文献

清水 一彦(2015)「若者の読書離れ」という"常識"の構成と受容 『出版研究』45巻, 117-138

国学生活協同組合連合会(2018)「第53回学生生活実態調査の概要報告」

https://www.univcoop.or.jp/press/life/report53.html

総務省(2020)「令和元年度 情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査」

https://www.soumu.go.jp/iicp/research/results/media_usage-time.html

文化庁(2010)「平成21年度国語に関する世論調査

https://www.bunka.go.jp/tokei_hakusho_shuppan/tokeichosa/index.html

水野 博介(1980)「活字離れ」論ノート 『桃山学院大学社会学論集』14巻1号, 55-66.

OECD. (2019) PISA 2018 Results COMBINED EXECUTIVE SUMMARIES

Protzko, J., & Schooler, J. W. (2019) Kids these days: Why the youth of today seem lacking. Science Advances, 5(10), 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「秀免」「秀面」についてのメモ

はぁ…

日本語の乱れの話|astral|note

秀逸が読めない時代なのか。さすがゆとりというか教育が悪いというか、偏差値低い人には何してもダメなのか…

2021/02/23 21:08

ほら絶対こういうアホが出てくるわけですよ。というわけで「秀免」「秀面」を誤用していた方の年齢を調べてきました。何でいちいち私がやらなきゃいけないんですかね。誰かやってくださいよホント。何か晒しているみたいで大変気が引けるんですが恨むならahmokさんを恨んでくださいね。他意は無いんです本当に。そのうち消します。

 

 「秀免」

2020年に「秀免」を明確に使用していたのは以下の6名である。

A****a 推定50代以上

ス**********ぞ 34歳以上

 メ***ラ 推定50代以上

く*ら 不明

自撮り(真偽不明)の画像を見る限り、20~30代の女性だと思われるが年齢に関する情報は一切なかった。

H*******l 推定40代以上

 N**† 推定40代以上?

 

「秀面」

2020年に「秀面」を明確に使用していたのは以下の6名である。

明***ン 推定50代以上

 

s*************s 推定40代後半以上

 

 f*****n 推定40代以上

 

ふ********(o^・^o) 推定40代以上  

植**彦 46歳

* 推定30代後半以上

まとめ

はい、物の見事に中高年の方を中心に誤用が見られました。まあahmokさんみたいな人には何を示しても無駄なんですけどね。付言すると、ここで取り上げた方の中には言語能力の障害や何らかの精神疾患を疑わせる事例も複数確認されましたので、あまりこの話題で盛り上がらない方が良いですよ。私が言うのもなんですけど。

氷河期世代は自分の頭で考えることができるのか/40歳・50歳代の自殺率って実は世界一なのか

ひろゆき曰く

僕は、1976年生まれの「就職氷河期世代」だ。
この世代の特徴は、「自分の頭で考えることができる」ということだと思う。
僕らより上の世代は、バブル世代であり、時代を謳歌してきた。会社からも守られてきただろう。

彼らの世代が、いま、早期退職でリストラの嵐に巻き込まれている。僕の世代は時代が悪かったぶん、考えることを余儀なくされ、おかげで能力が身についた。

ひろゆきが「ウソつくの、やめてもらっていいですか?」と語るワケ | 1%の努力 | ダイヤモンド・オンライン

氷河期世代の特徴は知らないが、「氷河期世代アイデンティティとしている人」の特徴ならばむしろ逆では無いだろうか。誰も否定しないどころか同情しながら肯定してくれる安直な説明図式を濫用して、日本の社会経済問題はもちろん自らの不遇な境涯から明日の天気に至るまで、あらゆる物事を氷河期と結びつけて説明したがる嫌いがあるように思う。

40歳・50歳代の自殺率って実は世界一?

たとえば、つい先日以下の記事がはてなブックマークのホットエントリに入っていた。 中々刺激的な見出しだ。はてなー達の反応が気になるところである。

「いやちょっと待って、これでどうやってこれ70歳まで働くの?」みたいなところで、日本の40歳・50歳代の自殺率って実は世界一なんですね。それくらい深刻な問題になってきています。

EmanuelWilfer その世代は就職氷河期世代だからそりゃ自殺するでしょ、としか。 ☆30

tigercaffe 金がありゃ自殺までは追い込まれないと思うよ。ヒントは氷河期世代。 ☆134

dtpg 就職氷河期世代は、ずっとクライシスなんだが。 ☆30

daibutsuda 「氷河期やから」で全部説明つくが。 ☆27

kk23 氷河期だけど職に恵まれない人が多いのは当然としても、安泰そうな職業の人でもパートナーに恵まれなかったりととにかく皆なんらかの不安要素を抱えてる、me too. ☆3

topiyama バブル崩壊就職氷河期世代の経済事情の話かと思ったら違った(多分こういう先が見えた中間管理職への話も大事なんだろうけど) ☆10

sisya 「ミッドライフクライシス」などという大仰な名前を付けなおさなくても、就職氷河期という苦痛を20年30年味合わされ続けて、生きながらに死んでいるだけなので、自殺率を取り上げて騒いでも何の意味もない。 ☆0

sugikota 40-50代の自殺率は氷河期世代が30代だった頃と変わってないので、なんつーか、そういう問題ではない。 ☆3

duedio 10年後くらいに、氷河期世代が40代、50代から去って、自殺率は改善したってみんな安心して終わりそう。 ☆1

Arturo_Ui もはや40代の大半が就職氷河期世代だけど、その世代は「まともに就職も結婚もできなかった」と絶望してる層と、就職はしたものの同期が少なくて、他の世代と比べても管理業務がキツすぎる層に分化してるわけでして。 ☆4

nabinno 氷河期世代の自殺は増えるのだろうか? 下がるも何もずっと下降圧力にあったので今もつらさは変わらない、出来ることに対して期待値が下がり始めるので逆に楽になってる。 ☆0

mkotatsu 氷河期か?仕事がないか非正規何か起きたら自己責任って、頼れる親がいなくなったら死ぬしかない / この世代の女は元からM字カーブで仕事脱落者が多いからそんなにハードランディング感がないかも ☆0

私のコメントを除いた110件のコメントの内12件が氷河期世代に言及していた。単純に1割強というのも相当な数字*1だが、謎のヒントを提示しているtigercaffeのコメントがトップブコメになっているので、少なくともはてなーの間では決して少数派の意見では無いのだろう。その内少なくない人が氷河期世代を自認していると思われる。ちなみに、私がコメントをした時点では「氷河期世代だからウキウキして読んでみたけど全然違うこと書いてて残念」というブコメもあったのだが現時点では消えている。

事実はどうなの?

 私のブコメが以下である。ちなみに付いたスターは三つだ。

40代、50代男性の自殺率は世界トップクラス 「中年の危機」が訪れる理由と抜け出すための道筋 - ログミーBiz

日本の40~50代男性の自殺率はフランスと同程度でそれより高い国はいくらでもありますが…https://bit.ly/3sbaspM 他世代との比較でも氷河期世代の自殺率は別に高くないんですがこれでまた被害者意識が強化されるんでしょうね

2021/02/20 05:29

糞みたいなブコメ群に若干イラついていたので少し皮肉を入れてしまっているが、ここに書いている通り、40-50代の自殺率は世界一ではない。GHDxによれば、2019年時点で日本より自殺率の高い国*2は、レソト, グリーンランド, ガイアナ, エスワティニ, 中央アフリカ, リトアニア, ウクライナ, ジンバブエ, ソロモン諸島, キリバス, カザフスタン, ロシア, モザンビーク, ボツワナ, ベラルーシ, スリナム, カーボベルデ, ハンガリー, ラトビア, ポーランド, ナウル, モルドバ, ギニアビサウ, 韓国, ナミビア, モンゴル, ガボン, エリトリア, スロベニア, モンテネグロ, ウルグアイ, ブルキナファソ, マーシャル諸島, スリランカ, ベルギー, ソマリア, アンゴラ, ネパール, ミクロネシア, バヌアツ, コンゴ, セルビア, エストニア, マラウイ, コートジボワール, カメルーン, トーゴである。世界地図からどれだけの国を抹消すれば気が済むのか。OECD諸国に限定すれば「トップクラスに高い」くらいは言えるかもしれないが、それは40-50代に限らず全年代でそうである。また、自殺者に占める40-50代の比率が高いという事実もない。

自分の頭で考えた結果なのか、考えなかった結果なのか

ある意味これも「自分の頭で考えた」結果なのかもしれないが、国内の自殺統計に関する最低限の知識があれば、常識的な思考でも上の主張がおかしいことには気付ける。以下に示すのは「令和2年版自殺対策白書」に掲載されていた年齢階級別の自殺死亡率の推移と諸外国の自殺率である。誰でも容易に入手できる資料すら参照せずに自殺を議論しているのであれば、それは宇宙から謎の電波を受信して訳の分からないことを口走る人と同じである。

f:id:HaJK334:20210223075402p:plain

f:id:HaJK334:20210223080707p:plain

細かい数字を一切無視しても、2010年以降に(10代除く)全年代で自殺率が減少していることが分かるだろう。40-50代に至ってはピーク時と比較して半減である。当然、自殺大国ニッポンの地位も近年では他国に脅かされている。女性の健闘もあって国としての順位は未だにそこそこの位置に付けているが、男性陣は5年前の時点ですら東欧諸国や韓国、ロシア、ハンガリーの後塵を拝しているのである。

以上の基礎的な知識を持っていれば、令和3年の今になって「40歳・50歳代の自殺率って実は世界一」という珍説を提唱することも、それを信じることも無かっただろう。いかに常識人面している世間の人々が妄想の世界に生きているかということだ。普段は「詐欺グラフwww」などとはしゃいで自らのリテラシーをアピールしているはてなの皆様がこうも統計を軽んじるのは一体どういうわけなのでしょうかね。ウソつくの、やめてもらっていいですか?

*1:たとえば、なんでも実況J等の匿名掲示板において、明らかに女叩きが予想されるスレでも女性器呼びの出現率は5%以下に留まる。https://hajk334.hatenablog.jp/entry/2020/05/19/155144 ちなみに、明らかにゆとり叩きが予想されるスレでも「ゆとり」の出現率は1%未満になることが多い。

*2:40-50代(5歳階級)の自殺率のいずれかが、日本で最も自殺率の高い55-59歳階級の自殺率を上回っている国。また、数値は推定値を含んでいる。

ネットの主役はおじさんなのか

「(笑)は、ちょっともう古い」 20代に聞いた、(笑)・笑・w・wwwのどれを使うべきか問題 | 文春オンライン

「40代が最近の若者に合わせて"w"を使うのが痛々しい」という(Aさん・24歳・ホテル業界)の認識がヒドい。アレは2ちゃんねるド真ん中世代だった中年が昔から使ってるのであって、若者に合わせてるわけではない。

2021/02/20 08:34

400以上のスターを付けちゃうくらいネットの歴史の時系列に厳しいなら「若者のPC離れ」とかいう珍説にも同じ態度を示してほしいんですけどねぇ…殆ど反響が無いんだなこれが。まあ"若者に合わせる痛々しいおっさん"なんてあんまりな濡れ衣を着せられては過敏な反応も止む無しだろうか。おっさんは繊細な生き物なのだ。

それはともかく、何故このような悲しいすれ違いが生じたのか。掘り下げたところで社会が進歩するわけでも世界が平和になるわけでもないので単なる若者の無知で片づけても良いのだが、これも一種の世代論と考えればこのブログの検討対象に加えても良いかもしれない。少し考えてみよう。

 

群盲象を評す

まずは、Aさん(24歳・ホテル業界)の認識が、ある意味では事実の一側面を示していると考えてみよう。たとえば、冒頭のブコメでは"2ちゃんねるド真ん中世代だった中年"が"w"という表記を一般的に使っていたとされているが、これはある意味では不正確な認識だ。何故ならば、"w"という表記が使われ始めたのは2ちゃんねる設立以前のオンラインゲームコミュニティにおいてであり、中年世代の2ちゃんねる利用率もそれほど高くはなかったからである。

もちろん、だからと言ってこの認識が間違っているとは言えない。少なくとも90年代後半の時期と比較すれば、2ちゃんねるによって"w"が爆発的に普及したのは確かだろうし、その中心となったのが当時30代辺りの世代だったとすれば*1、とりもなおさず、今の中年世代こそが"w"を世に広めた立役者であるということになる。ちなみに、『通信利用動向調査』によれば、2000年代を通じて10~30代*2の電子掲示板の利用率自体は殆ど同率(15-20%)で変わらない

それと同じことが起こったと考えれば良い。オンラインゲームのチャット欄という限られた場所で使われていた表記が、2ちゃんねるに輸入されたことで2ちゃん全体はもちろん周辺のネットコミュニティにも広がったように、その後の動画投稿サイトの隆盛やSNSの普及によって、かつての中年世代以上に"w"が若年層に普及したと考えるのである。

実際に、上述の通信利用動向調査では2009年時点*3で「動画投稿サイトの利用」が「電子掲示板(BBS)・チャットの利用」を10ポイント程上回っており、中でも10代の利用率(35.6%)は全年代でトップとなっている。余談だが、2009年時点ではインターネット利用率(97.7%)も電子掲示板利用率(23.2%)も10代が最も高い。

SNSについても見てみよう。以下のグラフは2010-2019の期間における10代から40代のSNS利用率の推移を示している。ただし、2013-2014年調査には「ソーシャルネットワーキングサービスの利用」の項目が無かったため「ソーシャルメディアの利用」の数値で代替している。

f:id:HaJK334:20210221071016p:plain

面白いのが10代と40代の比較である。2010年時点では両者の利用率に殆ど差は無かったのだが、スマートフォンが普及した2013年以降は15-20ポイントの差が付いており、2016年以降は一転して差が縮まった結果、現在では再び両者の利用率が並んでいる。ネット=SNSと捉えている人からすれば、ネットに不慣れなおじさんが後からノコノコやってきたように錯覚しても不思議ではない。

以上、ネット利用関連の統計をざっと見る限り、Aさんの認識は"ある意味"では正しい。電子掲示板の利用率はピーク時でも15%程度に過ぎず、その後流行した動画投稿サイトやSNSの利用率(50-60%)とは大差が付いており、かつ、それらのメディアは主に若年層を中心に普及したからである。つまり、Aさんの主張するような状況も局所的には生じてしまうということだ。

かつてのねらーからすれば不当な汚名であり、それは誤認しているか錯覚であると指摘したくなるのも分かるのだが(そしてそれもある意味では正しいのだが)、皆が皆2ちゃんねるを利用していたわけでは無い以上、Aさんのような認識が生じるのも仕方のないことだろう。

結語

以上の結論は一見すると自明である。デジタルディバイドという言葉がかつて流行ったように、「インターネット利用者」という存在が一枚岩ではない以上、世代概念を用いてその歴史を記述するには限界がある。Aさんの認識も、ブコメの認識も、分布を無視した粗雑な世代論であるという意味で大差はない。自らの経験が安直に"我々"の経験へと拡大され、それに対立する"あいつら"が生み出されてしまうことこそ、世代論の宿痾なのである。

*1:イメージ通り!? 2chは高齢化、ニコ動は“リア厨” - ITmedia NEWS 

「2ちゃんねらー」意外な実像 14%が年収1000万以上: J-CAST ニュース【全文表示】

*2:ここでいう10代とは15~19歳を指す。以下の記述も同様である。また。

*3:2008年以前は項目が無い。

子供の自殺にいちいち騒ぐな

最初に結論から書くと、子供の自殺増加の原因はコロナ禍による休校と2000年代半ば以降から続く学業時間の増加傾向だけでも十分に説明が付く。かつ、子供の自殺が増加したと言っても、最も自殺率の高い高校生でせいぜい世代人口の0.01%程度に過ぎない。個人的にはわざわざ騒ぎ立てるほどのことでは無いと思うが、もし一人でも減らす努力こそが大事だと言うのであれば、まずはその無責任な口を閉じたらどうだろうか。若年層ほど自殺に関する情報の影響を受けやすいことは比較的良く知られた現象である(Mueller & Abrutyn 2015; O'Carroll & Potter, 1994; Zimmerman et al., 2016)。

 

自殺統計

日本の自殺者に関する統計には、主に警察庁によるもの(自殺統計)と厚生労働省によるもの(人口動態統計)が存在する(森山 2019)。自殺統計は警察庁の自殺統計原票を集計した結果であり、「〇年中における自殺の状況」という形で公表されている*1。月別の自殺者数は当該月の翌月に速報値が発表され、年間の自殺者数は翌年の3月に確定する。

ただし、警察庁が発表する月別の速報値・暫定値では男女別・都道府県別の自殺者数しか公表されていない。月別のより詳細な数値については、厚生労働省自殺対策推進室が、警察庁から提供を受けた自殺統計原票データに基づいて公表している*2。年齢別、職業別、原因・動機別などのデータは「地域における自殺の基礎資料」で確認できる。

厚生労働省の人口動態統計に記載される自殺者数は、死亡届に基づいて作成された死亡票を集計した結果である。月別の自殺者数は当該月の約5か月後に「人口動態統計月報」で概数が公表され、年間の自殺者数は翌年の9月に公表される。警察庁の自殺統計とは異なり、職業別や原因・動機別などの詳細なデータは知ることができない。

この二つの統計に加え、文部科学省(旧文部省)は昭和49年から児童・生徒の自殺状況を調べており、現在は「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」の中で自殺者のデータを公表している*3文科省調査は学校からの報告に基づいたものであり、学年別の自殺者数や自殺の原因・動機などが記載されている。

当初は公立中・高等学校のみを調査対象としていたが、昭和52年からは公立小学校、平成18年度からは国私立学校、平成25年度からは高等学校通信制課程も対象となっている。なお、昭和63年以降は年間の数が年度間の数に変更されている。

以上三つの統計が子供の自殺に関する主要な統計であり、これを参照しない議論は言語道断、支離滅裂、有害無益の電波妄言であると断言して良い。

 

自殺の原因について

子供の自殺についてはこの100年程、洋の東西を問わず盛んに議論が交わされてきた*4。その原因としては「意志薄弱」「気風の頽廃」「學業成績の不良」「病的名誉心」「煩悶的学問の弊」「家庭生活の困難」「内因的神経變質」「自然主義の流行」等々、様々な要因が提案されてきたが、これらの内いくつかは現代の統計によってその妥当性が裏付けられている。

上述した通り、自殺の原因・動機が記載されているのは警察庁の自殺統計と文科省の自殺状況調査の二つである。それぞれの調査について、自殺の原因・動機を集計した表を以下に示す。なお、自殺統計は職業と原因・動機をクロスした令和2年のデータが現時点で公表されておらず、文科省調査も令和2年度調査の結果が公表されていないため、いずれも令和元年(度)の結果である。

 

f:id:HaJK334:20210216080036p:plain

まずは警察庁の自殺統計の結果である(上表)。令和元年の小中高生の自殺者総数は確定値(発見日ベース)で399人、そのうち特定された原因は376となっている。なお、平成19年以降は自殺統計原票に最大三件まで原因・動機が記載されるようになったため、原因が特定できなかった者の割合は分からない。平成18年以前の統計では概ね7割弱の学生自殺者の原因が特定されていない(遺書なし)。ちなみに、NHKの報道では令和元年の自殺者数は339人となっているが、これは暫定値を使っているためである*5

表を見てみると、自殺の原因・動機は「学校問題(157)」が最多であり、それに「家庭問題(80)」「健康問題(66)」が続いている。学校問題による自殺となるといじめ自殺を想起する人も多いだろうが、実際には表の右を見てもらえば分かるように、「いじめ(2)」は学校問題の中で最も少ない自殺原因である。「その他学友との不和(24)」を全ていじめによる自殺だと仮定しても、特定された原因の内7%程度しか説明しない。

 

f:id:HaJK334:20210216194538p:plain

次に文科省の自殺状況調査の結果である(上表)。自殺者総数は317人、そのうち特定された原因は220となっている。文科省調査も自殺統計と同様、複数の原因が計上されている。表の通り、「家庭不和」「進路問題」「父母等の叱責」「精神障害」「えん世」がほぼ同数であり、それに「学業不振」「友人関係での悩み(いじめを除く)」が続く。こちらでも「いじめ」は比較的マイナーな原因であり、事実関係に関わらず「いじめがあったのではないか」という保護者からの訴えも計上している(文科省 2020)。

以上、二つの統計を見ると、子供の自殺原因はその大半が「家庭環境の悩み」と「学業上の悩み」であることが分かる。いずれの理由も子供の自殺研究では古くから指摘されてきた要因であり、他方で「いじめ自殺」など近年世間で大流行している自殺は残念なことに統計上は殆ど発生していない。

もしかすると、「いじめは学校が隠蔽するから」「遺書に書いてないだけ」と主張する人もいるかもしれない。勿論その可能性もあるのだが、一度立ち止まって考えてみてほしい。もし、いじめられて自殺した子供がそれを誰にも知らせなかったならば、それを一体どうして我々が知っているのか。我々のいじめ自殺に対するイメージの殆どはマスメディアの報道やフィクションによって形成されたものではないだろうか。

フィクションは言わずもがな、マスメディアの報道量も実態を反映しているとは限らない。たとえば、2017年には女子大生のスマホ運転による死亡事故が大いに世間の耳目を集めたが、ITARDAのデータを確認すると、2017年中に「携帯電話の操作」を主因とする自転車による死亡事故は1当・2当合わせても1件しか発生していない*6。いじめによる自殺が子供の自殺の大部分(或いは増分)を説明するという主張に積極的な証拠は無い。むしろ報道の熱意を考えれば、実態に反したイメージが形成されていたとしても全く不思議は無い。

 

何故子供の自殺が増えたのか

上述の通り、子供の自殺の二大要因*7は「家庭環境」と「学業」である。したがって、自殺増加の原因を考えるならば、愚にもつかない思い付きを並べ立てる前にまずこの二つの要因の変化を調べるべきだ。前者については、休校によって家庭に居る時間が増えたことは容易に想像がつく。必然家庭環境の悩みも増えるだろう。後者については、以下に示すように2000年代半ば以降、児童・生徒の学業時間は増加傾向にあり、この15年程の自殺率の上昇と一致している。加えて、休校による学業時間の減少はむしろ学業上の悩み(学業不振・進路不安)を増大させるものであり、これも自殺率の上昇を説明する。

 

 

結語

以上の説明は極めて大雑把なものですが、思い付きで垂れ流される感想文よりは遥かにマシだと思います。

 

引用・参考文献

厚生労働省自殺対策推進室・警察庁生活安全局生活安全企画課(2020)令和元年中における自殺の状況, 8.

森山 花鈴(2019) 日本における自殺統計の基礎知識 南山大学紀要 『アカデミア』 社会科学編, 17, 223-230.

文部科学省(2020) 令和元年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果, https://www.mext.go.jp/content/20201015-mext_jidou02-100002753_01.pdf

Mueller, A. S., & Abrutyn, S. (2015). Suicidal Disclosures among Friends: Using Social Network Data to Understand Suicide Contagion. Journal of Health and Social Behavior56(1), 131–148.

O'Carroll, P. W., & Potter, L. B. (1994). Suicide Contagion and the Reporting of Suicide: Recommendations from a National Workshop. Morbidity and Mortality Weekly Report: Recommendations and Reports, 43, pp.9, 11-18

Zimmerman, G. M., Rees, C., Posick, C., & Zimmerman, L. A. (2016). The power of (Mis)perception: Rethinking suicide contagion in youth friendship networks. Social Science & Medicine, 158, 31-38.

*1:https://www.npa.go.jp/publications/statistics/safetylife/jisatsu.html

*2:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/seikatsuhogo/jisatsu/jisatsutoukei-jisatsusyasu.html

*3:https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/seitoshidou/1302902.htm

*4:https://hajk334.hatenablog.jp/entry/2020/04/10/010823

*5:https://www.mhlw.go.jp/content/12201000/000707296.pdf こちらの資料でも令和元年の自殺者数は339人となっており、出典は「『地域における自殺の基礎資料』(暫定値)を基に文部科学省において作成」としている。

*6:最新年である令和元年は0件。交通事故全体で見ても携帯電話やスマホを要因とする事故件数は全体の1%にも満たない。かつ、警察が「携帯電話使用等に係る交通事故」として発表している件数は少なくとも半数程度がカーナビによるものであるため、さらに割合は下がる。「ながら運転」の統計については稿を改めて詳述する。

*7:自殺の多くは多様かつ複合的な原因及び背景を有しており、様々な要因が連鎖する中で起きている(厚生労働省 2020)ため、便宜的な表現である。

メモ

「女の子が憧れる職業」1位はケーキ屋さん…それでも有名パティシエが男性ばかりなのはなぜ? | 文春オンライン

パティシエの男女比は6対4なので… 有名という曖昧な基準を抜けば云々抜けば、さほど男性ばかりの職業というわけでも… https://patissierninaruniha.com/how/men.html

2021/02/13 16:07

トップブコメが引用しているサイトでは

年収ラボの調査によると、平成22年の男性パティシエにおける復元労働者数(調査回答労働者数から復元した推計数)は36,180人に対し、女性のパティシエは25,660人もの就業人数でした。男女比率だと6:4というところでしょうか。

と記述されているが、この数値は年収ラボの調査によるものでもなければパティシエの労働者数でもない。実際には「賃金構造基本統計調査」の数値であり、正確にはパティシエを含む「パン・洋生菓子製造工」*1の労働者数である。2010年から2019年までの男女比率の推移を以下に示す。

f:id:HaJK334:20210214063603p:plain

 ついでに同様の話題で盛り上がりやすい調理師の推移も載せる。

f:id:HaJK334:20210214063814p:plain

 

*1:令和元年賃金構造基本統計調査の記入要領によれば「パン・洋生菓子製造工」には製パン工、パン発酵工、粉ふるい工、パン成型工、洋生菓子仕込工、洋生菓子仕上工が含まれ、焼菓子工、クラッカー製造工、ビスケット焼工、洋菓子工、包装工、和菓子製造工は含まれない。

はてなー数字読めない説

前回の記事に特に反応は無かった。新着エントリーにも載らなかったのでこのまま埋もれていくのだろう。まあ菅原先生がこれほど懇切丁寧に説明しても

blog.sugawarataku.net

blog.sugawarataku.net

blog.sugawarataku.net

若者が自民党を支持しているって本当?第1回――出口調査から若者の世論はわからない: 国会議員白書ブログ

なんだかんだ言っても野党支持のそれは自民支持のより低かったという厳然たる事実しかないわけで/投票に行かなかった層の指向なんか分かるわけねーし知る必要も無い

2017/11/15 17:40
若者が自民党を支持しているって本当?第2回――世論調査では20代の自民党支持率は高くない: 国会議員白書ブログ

選挙結果と世論調査に乖離を感じる場合は、世論の調査方法に問題があると考えるべきじゃないの?

2017/11/19 08:48
若者が自民党を支持しているって本当?第3回――自民党の得票率を過大に報告するメディアの世論調査: 国会議員白書ブログ

投票しないやつは存在しないも同然なんだし同じことでは。だから民主党政権誕生みたいな糞投票行動が怖いわけだが

2018/01/06 09:41

それぞれのトップブコメがこの様なのだからさもありなんといった感じである。しかし政治学者の論考に対して「考える必要はない」という知的退廃の極みのようなコメントを支持する割には前回の記事のように中学生が残り10分の授業時間で無理やり捻りだしたような感想文で盛り上がるのだからまあ不思議な人たちである。

この不可思議を解明する一つの鍵はもちろん認知バイアスにあるのだろうが、もっと単純に能力の不足にその原因を求めてもいいのかもしれない。最近「偶数と奇数の区別が付かない人」が話題になったように、人間の数理的能力は一般に想像されるよりも遥かに低い、正確に言うと単純な四則計算ですらその知的負荷は一般の人にとって想像以上に大きいのかもしれない。

たとえば以下の記事についてである。著者である一田和樹氏はとある調査結果の表を引用し、「保守的傾向はデジタルネイティブ層(G、H)に見られた結果となっている」としているが、これはご本人も表の意味を良く理解していなかった可能性が高い。何故ならば、記事中の表は年代構成比も各クラスタの割合も異なるため、縦に読んでも横に読んでもそのままでは無意味だからである*1

the01.jp

実際の各年代における各クラスタの割合を導くためには、各クラスタの割合にそのクラスタの年代構成比を掛けて全体に占める割合を計算し、それを(全体の)年代構成比で割らなければならない。たとえば、16~25歳に占める保守パターンAの割合を知りたければ0.061×0.224÷0.182≒0.075と計算すれば良い。各年層・各クラスタについて計算した結果が以下の表である。

f:id:HaJK334:20210205132426p:plain

この程度の計算は文理を問わず義務教育修了程度の学力があれば何の問題も無くこなせるはずであり、かつ計算しなければ(暗算能力に優れる人以外は)記事中の表から一田氏が主張するような若年層における保守的傾向の偏りを見出すことはできない。はてなーの大多数が中学生程度の学力すら有していないとは考えにくい。恐らくこの程度の計算すら多くの人にとっては面倒な作業なのだろう。

ちなみに、ここでいう保守・リベラルパターンとはあくまで道徳基盤理論における区分であり、必ずしも政治的な保守・リベラル傾向と一致するわけではない。実際に、保守パターンE・Fでは政治的志向性が明確ではなく、どちらにもあてはまらない回答者が6割を超えているのに対し、リベラルパターンG・Hでは8割の回答者がその政治的志向性を明確にしているものの、4割-5割の人間は自らを保守と認識しているのである。

参考までに、引用元の論考に掲載されていたMFTに基づく各類型の道徳基盤分布*2と、実際の調査の結果分類された各クラスタの道徳基盤分布を掲示しておく(「中央公論」2018年1月号 pp.138-139)。ちなみに以上のことは3年前に一田氏にも説明したのだが、今に至るまで返信は無く訂正もされていない。

f:id:HaJK334:20210209213556j:plain
f:id:HaJK334:20210209213551j:plain

 

まあそんなことはどうでも良いのであって問題ははてなー諸氏の記事に対する反応である。760のブックマークと232のコメントが付いたこの記事、何と、誰も、表の数字に突っ込んでいないのである。「分からない」という反応ならばまだ分かるし、正直私も一見してこの表をどう見れば良いか分からなかった。それすらも無い。ということは彼らは確かにこの表から何かを読み取ったのだろう。一体何を読み取ったのだろうか。

 

何かを理解してしまった人たち

masasia0807 反知性ホイホイ。明らかに記事を読んでないブコメにそこそこスターついてて、皮肉にも記事の説得力が増している。

nao_cw2 この記事を読んでも無自覚にbotに成り下がって、左派がー朝日がーってブコメがあるんだから明らかに右傾化。何を指摘されてんのかわかっちゃないDD論も少しは脳みそ使わんと。

takamoriii 表面的な情報だけ見てると流されることは多いのかも、とくにYoutube動画の影響での右傾化は多そう。ネットで情報掘り下げているとふと無意識に自分が望む方向の答えの根拠探しになってて「はっ」とすることある。

questiontime 差別や誤った情報を流しても社会的地位も信用も失われないことで、差別やデマを流した者勝ちになっていることが最大の問題。なにせ現総理大臣その人が野党時代ネットのデマで当時の政権を貶めた張本人。

ryun_ryun 仕事してても思うけど、自分で情報を取捨選択して自分の意思でちゃんと行動できる人ってすごい少ない。飼い慣らされることに疑問を持たないのか。

blue0002 偏った情報しか得てないし、偏った人間としか付き合わないから必然そうなる。自覚症状もない。バカに効く薬を開発しろという難問とほぼイコール

kagecage デジタルネイティブは情報精査のクセがないから何より「近い情報」「多い情報」を信じやすいんだろうな。まとめサイトとかツイッターへ働きかけるのはうまい戦法。若い世代には流されないよう十分注意喚起しなきゃ。

greenbuddha138 国家規模で情報分析能力の欠如が甚だしい。分かりやすい言論、というよりミームに流されやすい。不正義を糾弾することで承認を得ることに、中毒になってる。教育の破綻と承認の欠乏が原因かと思う。

clover-chisei デジタルネイティブの右傾化が進んでいる。右傾化を促しているのは現在のところ不明。だが、ロシアが世界の(右派左派問わず)過激なグループや政党の支援をしているとの分析も

 

まとめ

図表なんて飾りですよ。イワシの漁獲量の推移でも載せとけばいいんです。

*1:ついでに言うとG, Hはリベラルパターンである。

*2:Iyer R, et al. (2012) Understanding Libertarian Morality PLOS ONE 7(8)による。