若者論を研究するブログ

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「『それでも若者は自民党を支持する』論はもうやめようや」への批判

anond.hatelabo.jp

何の根拠も提示せずに自分の思い込みだけで「特定集団のせいで国が滅びる」と宣う連中がどの面下げてネトウヨを馬鹿にしているのでしょうか。私がきちんと批判するのではてなの皆さんはちゃんと受け入れてくださいね。

 

元増田について

普段若者と接することが多い仕事をしているので、少なくない若者が自民党を支持しているというか、自民党の批判を嫌がる傾向があるのは身にしみてわかる。

無意味な実感。刑法犯少年の検挙件数が5年連続で戦後最低を更新した2015年に実施された「少年非行に関する世論調査」では2.5%の人間が「少年による重大な犯罪が減った(「かなり減った」+「ある程度減った」)と回答している。

 

別に彼らはネトウヨというわけではない。もちろん主にネットで情報を収集しているので、メディアに対する不信感はすさまじいものがあるが、それでもほとんどの若者はネトウヨとはいえない。なぜなら森元なんかを選挙で選んでいる田舎のじーさんばーさんなんかよりずっと進歩的だしリベラルだからだ。

インターネットもメディアである。総務省の「(令和元年度)情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査」では、年代毎の各メディア(テレビ, 新聞, インターネット, 雑誌)に対する信頼度も調査されており、結果*1は以下のようになっている。

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それぞれ10-40代、20-30代が同様の傾向を示している。ネットへの信頼度が高い20-30代でも過半数はテレビ・新聞を信頼しており、最も信頼度が高いメディアとなっている。なお20-30代のテレビ・新聞に対する「信頼できない(「一部しか信頼できない」+「まったく信頼できない」)」の割合は1割程度であり、その意味でも元増田の表現は誇張である。

 

リベラルなのになんで自民党を支持するのか?いろいろな角度から説明ができると思うが、例えば、①今の小学校~高校は空気を読む教育が行われているので、和を乱す、すなわち批判することを許さないこと、②少子化の影響で親に可愛がられて育ってきているので、親に反抗するような態度はありえないということ、などが考えられる。

中学生の感想文程度の考察。若年層の自民党支持については「分断社会と若者の今」(大阪大学出版会 2019)において統計に基づいた実証的考察がなされている*2のでここでは割愛し、①、②について検討する。

そのような教育は行われていない。なんだ「空気を読む教育」って。元増田に限らず同じような主張をされる御仁を時折見かけるのだが、管見の限りこれらの主張に何らかの制度的・実証的根拠が提示されたことは無い。恐らく「手を繋いでゴール」やそれに類するデマによって醸成された「何となくのイメージ」で語っているのだろうと思われるが、詳しいことは分からない。以前同じことを主張されていた小野寺拓也氏にも聞いたことがあるのだが返事は無かった。批判されることが苦手なのかもしれない。

②因果関係が不明だが、恐らく一人っ子の増加によって子供に注がれるリソースが増えたということだろうか。2015年に実施された「第15回出生動向基本調査」では、結婚持続期間15~19年の夫婦の出生子供数は「1人」が18.6%、「2人以上」が75.2%となっている。子持ちの夫婦に限れば8割は兄弟姉妹が存在することになり、若年層の一般的特性とは言えない。

また、人間は説明を重ねれば重ねるほどそれに説得力を感じてしまうものだが、これは当然に非合理的な直観である。たとえば、一人っ子が増えたことにより子供に注がれる愛情が増え、それによって子供の反抗心がスポイルされた結果自民党の支持が増えたという主張があった場合、①一人っ子の増加②愛される子供の増加③反抗心の減退④自民党支持の増加という四つの主張が実証されなければならない。いわゆる連言錯誤の問題である。

 

これだけだとまさに自民党支持者のようだが、①でも②でも、この枠内で、自分に関係のないことであれば、他人が何を考えていようが何をしようが若者は許容する。自分に関係があることでも、将来のためになるなど割り切れれば許容する。逆にここに介入してあーだこーだいうことを「価値観の押し付け」として極端に嫌う。

根拠が提示されていない。一般的なリテラシーとして「極端に嫌う」のような表現は疑わなければならない。数字によって根拠づけられない主張はレトリックによって補強するしかないからである。

 

具体例を挙げると、ゲームの時間を禁止すること、夫婦同姓、同性婚、中絶などプライベートな事柄について上からああしろこうしろということを今の若者は極端に嫌う。若者がリベラルというのはこういう意味だ。

以下のグラフは「社会生活基本調査」によるゲーム行動者率とゲーム行動者数の推移である。ゲーム行動者率は当然ながら若年層の方が高く、仮に「ゲームの時間を禁止すること」に反発しているのが若年層に限られるとしても当然であり、ここに何らかの心的特性を見い出すのは外国人の犯罪率が高い(故にモラルが低い)と主張するネトウヨと同レベルの思考である。

また、ゲーム行動者数は2000年代半ばには10代に代わって30代(団塊Jr)がトップとなっており、現在では10~40代のいずれも800万人程度がゲームをプレイしているため、ゲーム時間の禁止に反発しているのが若年層のみとは限らない。ネットの世界では性別・年齢・国籍の透視によって、ますますその属性へのステレオタイプが強化されることが往々にしてあるため注意が必要である。

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夫婦同姓、同性婚、中絶についての記述は筆者の主張を補強していない。仮にこれらの支持・不支持と自民党がまるで無関係ということであればそれは無関係なのだろうし、逆に自民党の主義主張がこれらに反しているのであれば、当然に若年層の支持率は低下するはずだろう。何を言っているのか本人も良く分かっていないのかもしれない。

 

若者がリベラルというのはこういう意味だ。自民党は今のところ①や②の枠に収まっているので批判するのは良くないということになる。言い換えれば、若者は自民党がリベラルなことも①や②の枠内でやってくれればそれでいいし、やらなければそれでもいいという程度の主義主張しか持っていない。

「①や②の枠」というのが若干不分明(特に②)だが同上である。若年層が夫婦同姓や同性婚などリベラルな事柄について賛同しているというのはそれ以上の意味を持たない。自民党支持はもちろん「プライベートな事柄にのみ反発する」ことすら示されていない。

 

しかしそれは親や学校がそうやって教育してきた結果だ。今の若者は結果よりも過程を重視するように教育されているので、「若者は自民党支持が多い」という結果だけを見て批判したり(ちなみに今の若者にとってはこの事実を指摘するだけで批判になる)すると大きな反感をかうことになる。

結果だけを見てお粗末なご意見を開陳すれば反感を買うのは当たり前である。他人のせいにしてはいけない。念のため注記しておくと、「反論されること自体が自説を補強する」というロジックは危険である。このロジックを採用する人間には反省の契機が存在しないことになるからであり、これは宗教の世界においても多用される論法である。

法華経には、釈尊の滅後において法華経を信じ行じ広めていく者に対しては、さまざまな迫害が加えられることが予言されている。〔…中略…〕大聖人はこれらの経文通りの大難に遭われた。特に文応元年(1260年)7月の「立正安国論」で時の最高権力者を諫められて以後は松葉ケ谷の法難、伊豆流罪、さらに小松原の法難、竜の口の法難・佐渡流罪など、命に及ぶ迫害が連続する御生涯であった。大聖人は、このように法華経を広めたために難に遭われたことが、経文に示されている予言にことごとく符合することから「日蓮は日本第一の法華経の行者なる事あえて疑ひなし」(「撰時抄」、284㌻)、「日蓮は閻浮第一の法華経の行者なり」(266㌻)と述べられている。

また、括弧内の記述(ちなみに〜)はさも事実であるかのような体で記述されているが根拠が提示されていない。

 

若者の土台はリベラルなので、リベラル派の人たちは若者を味方につけたいならどうかこういうことを若者の前で言わないように気を付けてほしい。

若者論の特徴の一つに「若者の不在」がある。これは第一に、当事者である若者以外の人間によって若者が規定されるという意味であり、もう一つは若者論が若者に届くことを前提にしていない、或いは想定していないという意味である。ネットで公開された文章である以上、当然ながら元増田の読者には当の若年層自身が相当数含まれているはずであり、にも関わらずそれをまるで想定していない記述で締められているのは元増田の認知が歪んでいることの傍証かもしれない。

 

ブコメについて

概ね「仮に元増田の主張が事実だとするならば」という仮定の下に批判しているものが多いが、中にはこれを事実として無邪気な賛否を示しているものも少なくはない。なにより、誤った議論に対してはまずその事実の誤りを指摘するべきである。誤った事実を基にした議論は再現性を欠くために無益であり、却ってその誤りを自明の前提としてしまうために有害である。

急いで書いたので筆を尽くしていない箇所も多い。以下はこの記事に寄せられた意見や反論に対する補足や再反論を追記する予定である。反応はまだない。

*1:「全部信頼できる」「大部分信頼できる」「半々くらい」「一部しか信頼できない」「まったく信頼できない」のうち前二者の割合

*2:同書第3章の分析では「伝統主義」と「権威主義」が若年層の自民党支持に関連していないことが明らかにされている。それぞれの質問項目は「伝統や習慣にしたがったやり方に疑問を持つ人は、結局は問題をひきおこすことになる」「男性は外で働き、女性は家庭を守るべきである」「権威のある人々には常に敬意を払わなければならない」である。