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朝日新聞33歳記者が“上層部批判”を遺して自殺した | 週刊文春 電子版

ご冥福をお祈りしますが、記事だけからいうと正直記者が年齢の割にナイーブ過ぎるように思う。世代の人数が少なく、上下同僚のつながりが少ないことや、コロナ体制、紙媒体メディアの変革期にあたることなど原因かな

2021/11/02 19:51

子供や若者の自殺についてはこのブログでも何度か説明しているが、その動機の最たるは「他人の死を肴にしてまでお粗末な社会論や世代論を語りたがるゴミ」がどうにも許せないからである。前置きを書く気にもならないくらいに腹が立っているので早速冒頭の主張を検証してみよう。以前の記事については以下にリンクを張っておく。特に最初の記事では自殺統計について最低限の知識が得られるはずである。

子供の自殺にいちいち騒ぐな - 「趣味は若者論です」

最近の若者は何故すぐに自殺するのか - 「趣味は若者論です」

①若年自殺率の推移について

まずは若年自殺率の推移について確認してみよう。氏の主張する原因はいずれも局所的・限定的な要因ではなく社会構造全体の変化であり、故にそれが妥当であるならば世代全体の傾向に反映されると考えられるからである。若年自殺率の増加が確認されれば氏の主張の傍証となる。以下は厚労省の人口動態統計に基づく20代自殺率の20年間の推移である。

f:id:HaJK334:20211103054245p:plain

グラフを見て分かる通り、20代の自殺率は2010年代以降減少を続けている。少なくとも、氏の主張は世代全体の傾向を決定するまでに強い要因ではないということになる。勿論、だからと言って氏の主張が否定されたわけではない。自殺統計が時に男の生きづらさの証拠として、また一方でナイーヴな若者が増加した証拠として融通無碍に使われているように、自殺率だけでは如何様にも語り得るからである。

そこで、次に原因・動機別の自殺率の推移を確認してみよう。以下の表は現行の集計方法となった2009年から2020年までの「勤務問題」を原因・動機とした自殺率の推移である。全体の自殺率の推移と同じく、勤務問題を原因とした20代の自殺率も2010年代以降に微減しているが、変化の幅は小さく概ね横ばいとなっている。30~40代も同様の傾向であり、特定の世代に特徴的な傾向は見当たらない。

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ただし、自殺それ自体の解釈と同じく、勤務問題による自殺の増減も、心性の変化によるものか就労状況の変化によるものかを区別するのは困難である。以上の統計は氏の主張の妥当性を示唆してはいないと言うに留まる。

②世代の人数が少ない

良くある誤解だが、日本の若年人口は直線的に減少を続けているわけではなく、団塊団塊Jr世代を除く世代人口にそれほど大きな違いはない。たとえば、以下のグラフは就業人口における25-34歳世代と35-44歳世代の比率の推移を示しているが、2010年代における若年比率の低下はその30年前にも全く同じ傾向が生じている。f:id:HaJK334:20211103074801p:plain

したがって氏の主張を検証するのは簡単である。この時期の若年層の自殺率の変化を調べればよい。実際に、若年比率が0.8を切った1985-1992年の20代の自殺率の推移を以下に示す。変化が分かりやすいように1980-2000年の約20年間分の数値を載せている。

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結果は氏の想定とは真逆だった。この時期は若年層の自殺死亡率が急減していた時期に当たり、1993年に記録した12.3という数値は統計を開始した昭和53年以来最低の数値である。敢えてこの数値と世代人口の多寡を関連付けるならば、世代人口が(前後の世代と比較して)少ないほど自殺が減ると言わなければならない。

③上下同僚のつながりが少ない

日本人の国民性調査によれば、

#5.6* 上役とのつき合い

あなたが会社で働いているとします。その場合、上役と仕事以外のつき合いはなくてもよいと思いますか、それともあった方がよいと思いますか?

上記の設問について、2013年調査の20代において「あった方がよい」とする回答が急増しており、1973年調査の20代と同等の水準にまで回復している。ちなみに、土井隆義はこれをゆとり世代のコミュニケーション様式が一極集中型へ変化した結果としているが、特に根拠などは提示されていない。また、より下の世代とのコミュニケーション実態については不明である。

④コロナ体制

特に異論はない。氏がなけなしの知性を発揮している。

⑤紙媒体メディアの変革期

抽象的かつ壮大過ぎて検証の方法が分からないが、業界の変革期に業界人の自殺が増えるという実証研究は寡聞にして知らない。探せばあるかもしれないのでご存知の方はご教授いただければ幸いである。

蛇足

たったこれだけの記事を書くのにもそれなりの時間と労力を費やしている。馬鹿が思い付きの妄言を垂れ流すのに要するコストとは比較にならない。これからは他人に迷惑をかけないよう自らの無能を噛み締めながら生きていくようdon_tacosさん(とスター付けた方々)へお願い申し上げます。

追記

この記事を書きあげたと同時にdon_tacosさんのブログに以下のコメントを残してきました。

突然のコメント失礼いたします。実はとある記事について、don_tacosさんのブックマークコメントが大変示唆に富んでおりましたので、憚りながら私のブログにて紹介させていただきました。手前勝手なお願いで恐縮ではありますが、是非ともご一読いただければと思います。https://bit.ly/3CEDTGE

しかし二日以上経っても何の音沙汰もありません。ブログの方は余り更新していないようなので気づいていないのかな、とも思いましたが、はてなサービスの通知は全サービス共通となっています。そしてdon_tacosさんは今日も元気にブコメを残しています。

変だな、不思議だな、と思いつつ今日再びコメントをしに行ったところ、私のアカウントではコメントが書き込めず、他のアカウントで書いたコメントは反映されませんでした。とても悲しいことですが、人が自らの誤りを指摘された際に最も頻繁に観察される反応は無視です。私は今日も3人の方に無視されました。

せめてもの慰みに、これからはdon_tacosさんを見かける度にこの記事のURLを張って死ぬまで粘着しようと思います。ありがとうございました。