若者論を研究するブログ

打ち捨てられた知性の墓場

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【メモ】FROGMAN 秘密結社鷹の爪団 独立愚連広報部 『ゆとり教育』

あらすじ

「亜呆」と大書されている白地のTシャツを着たヤンキー風の男と紫のアイシャドーが目立つガングロ風の女性が会話している。女性が便意を訴えると、どこからともなく「ゆとりもん」が登場し「どこでもトイレ」と言っておまるを取り出す。

ゆとりもんは二人に仕事をするよう促すが男性は「だりぃよぉ」とこれを拒否する。ゆとりもんは「そうしたゆとり教育の害」を矯正するよう未来の男性から命令されたと説明する。男性は「明日からやる」と渋々承諾した後、何か食べるものを出してくれと頼む。

ゆとりもんは「テラ豚丼」と「フライドゴキブリ」を取り出すが、二人はそれに怒りを見せる。ゆとりもんは「自分もゆとりプログラムで作られたためしょうがない」と開き直る。男性は日本の将来を心配し、自分の未来がどうなっているかゆとりもんに訊ねる。ゆとりもんは「ゆとり介護を受けている」と答え、女性が「放置されてんじゃん」とツッコむ。

ラストは「偽装」「虚偽」「捏造」といったネガティブなワードの羅列と頭を下げるスーツ姿の中年男性の画像をバックに「大人たちも言うほど大したことない!心配するな、ゆとり教育世代!」というナレーターの語りによって終了する。

 

本作の意義

ゆとり言説は2010年前後を境に大きく転換している。90年代若者論の衣鉢を継いだ00年代のゆとり言説は内藤(2006)が言うところの「凶悪系言説」がその中核的信念であり、一言で言えば傍若無人で我儘勝手な消費社会の申し子である。一転して、10年代以降のゆとり言説では「草食系」といった言葉で表されるように「情けな系言説」が主流となった。一言で言えば虫も殺せない右に倣えの嫌消費世代である。本作はこの00年代ゆとり言説の貴重な資料であり、二人の外見的描写が典型的な00年前後のそれであることは注目すべき点だ。

2010年前後のゆとり言説の質的転換について、言説を担った当人たちは気付いていないのか、それとも気付いた上で何らかの合理的説明を自らに施しているのか、或いは全く別の思惑があるのか興味はあったが確かめていなかったので、これを機にFROGMAN氏に聞いてみようと思う。返信があればここに追記する予定である。

 

人の属性で判断すること

その通りだ。たとえば、ネット右翼と俗称される人々は時に在日朝鮮人と犯罪率の高さを結びつけるのだが、これは明確に誤りである。第一に、在日朝鮮人が日本人と比較して犯罪率が高かったとしても、その規定要因が国籍であるとは限らない。規定要因は一般に多変量解析を用いて探索されるが、国籍という属性は変量の一つでしかない。「在日朝鮮人」という属性が犯罪率に対して負の効果を持つ一方で、在日朝鮮人の犯罪率が高くなるという事態は当然にあり得る。

また、当然のことながら大多数の在日朝鮮人は犯罪を犯さない。この種の誤りは「在日朝鮮人」という一つの人格的実体が存在するという直観を原因としている。これはその他の差別的偏見にも通底する要因であり、属性で判断せず個別に対応すべきという氏の主張は至当である。「ゆとり教育世代」という特定の属性を侮蔑する動画を作成した事実とどのように整合性をとっているのか、これも氏に聞いてみようと思う。ちなみに、世代論では一般にAge(年齢), Period(時代), Cohort(世代)の三つの変量を用いて分析されることが多い。これはAPC分析と呼ばれている。

 

参考として

本記事の主旨はゆとり言説の収集にあるため、動画内に見られるゆとり言説について詳細な検討はしない。差し当たって、ニートと若者論の関連については上に挙げた本田・内藤・後藤(2006)を、ゆとり世代の学力ないし知性の低下については以下の記事を参考として挙げるに留める。

追記

最新のツイートにリプライを送ったのですが、何故かログアウトしてから確認すると「攻撃的な内容を含む可能性のある返信も表示する」に分類されていたため、念のため一週間後にも@ツイートを送信したのですが特に反応はありませんでした。

理由は良く分からないのですが、私の紹介文は笑ってもらえなかったようです。余談ですが、私が氏にリプライを送った数日後に「【吉田勝子のヤバイわ!SDGs】第10話 SDGsのジェネレーションギャップ」というショートアニメが投稿されていました。内容の要約は以下です。

"SDGsは日本にそぐわない"と主張する中年男性・苔田に対し、主人公である吉田勝子は「今の子供たちは小中高の12年間でしっかりとした環境教育を受けている(背景に環境教育に係る08年改訂学習指導要領の文言が流れる)。その世代が社会の中核となった時に笑われてもいいのか」と批判する。「笑いたければ笑えばいい」と返す男性に対し、勝子は即座にそれを否定する。SDGsは"誰ひとり取り残さないことが命題"であり、"どんな世代の誰だろうとも幸せにならなければならない"と喝破する。

勝子の話が終わると、別の男性が苔田に対し「あなたも先月孫が生まれたばかりではないか。その孫が苦しむ社会を許容できるのか。我々がすべきことはつまらない意地を張って若者を従わせることではない」と教え諭す。話を聞いた苔田は納得し「分かった。取り組んだらいい」とぶっきらぼうに言い放つ。軽快なBGMと共に勝子が「それでは我が社は何をしましょうか」と問うと、若い女性社員が困ったように「何しましょうか…」と返し、物語は終了する。

氏の本心や自己認識が奈辺にあるのか興味津々ではあるのですが、たかが数分のアニメーションで忖度するのも憚られますから、野暮な分析はやめて氏からの返信を粛々と待ちたいと思います。