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小、中学生“落ちこぼれ”深刻 日教組が実態調査 分数計算、特に弱い中1 小5書き取り、半分間違う

小、中学生“落ちこぼれ”深刻 日教組が実態調査 分数計算、特に弱い中1 小5書き取り、半分間違う

 日教組槙枝元文委員長)は十一日、昨年秋に小、中学生を対象にして行った「学力実態調査」(国語、算数・数学)の報告書をまとめ、発表した。それによると①小学校五年生の漢字書き取りで、半分以下しか書けなかった子どもが四十四%②中学校一年生の数学では、整数の割り算がまったくできなかった生徒が約三十%――など、学校の授業からの”落ちこぼれ”が予想以上に大きくなっていることを浮き彫りにしている。日教組では、現行の教育課程で、教科書の内容はレベルが上げられたものの「児童、生徒の学力は逆に伸び悩み、早期詰め込みによる学力低下を招いた」とし、現行教育課程の改善などを文部省に強く働きかけていく方針。(関連記事22面に) 


 日教組による学力調査は二十五、二十八年に実施されたのについで三回目。今回は国民教育研究所(森田俊男所長)と共同で、とくに現在のレベルの高いといわれる教育課程の中で、児童、生徒の学力が果たして伸びたのか、どうかを主目的にして実施された。この種の大がかりな学力調査は最近では、全国教育研究所連盟がさる四十六年に行った共同研究があるだけで、文部省の学力調査は四十二年以降中止されている。今回の調査は「基本」と「補充」の二本立てで実施された。

 「基本調査」はある県の小学校五年生と中学校一年生を対象に国語と算数・数学、「補充調査」は、他の五県で、より広い学年を対象に国語、算数・数学について、「過去との比較」を主内容にして行われた。この学力調査に参加した児童、生徒は約五万人であった。


【国語】
 中学校一年生には小学校で習った九百九十一の漢字、小学校五年生は四年生までに習った漢字の中から主として「読み」「書き」について調査が行われた。その結果、女子が男子を平均点で十点以上上回った。(中学校一年)が、全体としてみると、習得すべき漢字の数が増えているのに、児童、生徒の漢字能力は皮肉にも停滞していることが明らかになった。

<読み>
 中学校一年生。百語の読みの平均点は七七・二点とかなりの成績。といっても七〇点以下が二十六%、つまり四人に一人が教科書をスムーズに読めない状況。男女別にみると女子が八一・七点で男子の七三・七点を一〇点近く上回っている。正答率が低かったのは「勧める」「朗らか」の一〇%台で、このほか「討論」「是非」「休息」なども四〇%台と不成績。
 小学校五年生。平均得点は八四・五点と好成績。ただ、半分以下しか読めなかった子どもが六・七%も。正答率の低かったのは「改める」の二〇%台、「帯」の三〇%。

<書き>
 中学校一年生。五十字の出題で平均正答率は六〇・四%。半分以下しかできなかった生徒は三三・二%で、得点のばらつきが大きい。ここでも男女差が大きく、女子が六九・六%なのに男は一五%も低く五三・四%。できの悪かったのは善の一〇%台を筆頭に、「救」「招」「屈」「己」の二〇%台。
 小学校五年生。平均正答率は五二%。半分以下しか書けなかった子どもが全体の四四・二%。正答率三〇%以下は、五人に一人の二二%。「孫」「燈」「清」「治」の四字が最も不成績で、正答率は一〇%台にとどまっている。

<過去との比較>
 文部省がさる二十五年から二十六年にかけて行った「教育漢字百字テスト(書き)」調査と同一内容について、小学校四、六年生、中学校一、二、三年生を対象に実施。その結果、二十五年前の方が全般的に平均点が高く、学年が進むとともに正答率が上昇しているのに対し、今回は学年が進んでも停滞気味となっている。例えば「底」という字。二十五年前では小学校六年生で正答率が四一%なのが中学校三年生では八四%にはね上がっているのに、今回調査では小学校六年生で五三%、中学校三年生になっても、ほぼ同じの五二%にとどまっている。日教組では、「一九七一年の新教科書から小学校で百十五字漢字が増やされたが、これがかえって児童、生徒に消化不良を起こさせた」と指摘している。


【算数・数学】
 中学校一年生、小学校五年生とも、前学年までに習った「計算力」について調査された。小学校五年生の正答率は七五・六%とかなり高いのに反し、中学校一年生になると大きくダウン、四七・六%と極めて悪い。とくに小数、分数の”つまずき”が多く、学年が進むにつれて「できる子」「できない子」の分化が目立っている。

<中学校一年生>
 問題は整数の加減乗除、分数の通分まで計四十七題。その成績は、五二点満点で三〇点以下(正答率五七・六%)の生徒が十人のうち六人を占め、零点から一〇点(正答率一九・二%)の生徒が五人に一人にものぼっている。整数の簡単な割り算、たとえば

17541÷18=
28955÷36=

がまったくできなかった生徒が二八・七%いたのをはじめ、小数の割り算、

5.008÷5.6=
9÷43=

ができなかった生徒が約八〇%にものぼった。分数の計算(加減乗除、通分)は、二〇%以上の生徒が零点をとっている。

<小学校五年生>
 整数、小数、分数の加減乗除についての七十九題。その成績は七九点満点で、六四点(正答率八一%)以上の好成績の児童が五三・七%にのぼり、正答率五〇%以下の子どもは一三・二%にとどまり、中学校一年生とは対照的。やや悪いのは小数割り算。

6.61÷7=

など五題の問題で零点が一九・八%出たが、他の整数、分数の加減乗除、小数の加減乗は、成績上位者が多くを占める、いわゆる”逆L字形”となっている。日教組、国民教育研究所では、中学校一年生と小学校五年生の大きな得点差について「小学校五年生の成績は良好だが、小数の割り算など中学校一年生での”つまずき”がすでに五年生の段階で用意されている」と指摘、現行指導要領による「習熟」と「数の意味の理解」の不十分さを強調。

<過去との比較>
 戦前(昭和四年、田中寛一氏による調査)、戦後(二十六年の久保舜一氏による調査)と日教組の二十八年の算数調査――これら三つの調査と同一問題について小学校四、五、六年生を対象にして行われた。その結果は「今回は顕著な正答率を示し、最高の高さ」(日教組)となった。「久保調査」の問題に対しては、今回は、加減乗除でいずれも正答率が七〇%以上の成績で、二十六年当時より二二-二四%もいい。田中、日教組の問題でも今回の方が約七-二四%も高い。もっとも問題がないわけでなく「一定の問題以上だと手をつけない子どもが急増する傾向は強く、そういう問題では久保調査の方が高得点を示している」(日教組)という。


基礎学力の低下明白
 日教組の今村彰教育政策部長の話「この調査で、子どもたちの読み、書き、計算といった基礎的な学力が低下、あるいは停滞し、子どもたちの学力の格差が拡大していることが明らかになった。現行の教育課程、教科書の内容について抜本的な検討が必要であることを示すものだ」

意外な結果ではない
 文部省・沢田道也小学校教育課長の話「日教組の調査結果は意外なことではない。どこが調査してもこんな結果になるだろう。現在、教育課程の改訂に取り組んでいる文部省の教育課程審議会でも問題にしているところであり、秋の中間答申もこの方向で作業が進められているところだ」

読売新聞, 1976.05.12, 朝刊, 教育, 1(5)

追記

「個人向けデジタル化資料送信サービス」が開始されたことで、当該調査の報告書が記載された国民教育(29)がいつでもどこでも誰でも閲覧できるようになりました。ゆとり教育へと大きく方針転換する契機となった調査ですから是非ご一読ください。現代の教育議論との類似性に驚かれるかもしれません。