若者論を研究するブログ

打ち捨てられた知性の墓場

MENU

濫用され得る薬物の有害性を評価するための合理的な尺度の開発 〈私訳〉

大麻がどーたらの議論でよく見るコレ↓ 一体いかなる理屈でこの画像が生み出されたのか、後学のため出典の拙訳を載せておきます。
Nutt, David, Leslie A King, William Saulsbury, Colin Blakemore. "Development of a rational scale to assess the harm of drugs of potential misuse" The Lancet 2007; 369:1047-1053.

要旨

薬物の不適切な使用や乱用は重大な健康問題である。現在、有害な薬物はそのリスクや有害性に基づくとされる分類システムによって規制されているが、その分類システム構築に係る方法論や手続きは概して曖昧であり透明性に欠けている。したがって、その規制やシステムの正確性は保証されておらず、それによって薬物の啓蒙活動も説得力が低下している。

我々は、エビデンスに基づき様々な違法薬物の有害性を評価するため、デルファイ法により九つのカテゴリを持つ有害性評価マトリクスを開発し、その実用可能性を調べた。参考のため、我々の調査には五つの合法的な薬物(アルコール、カート、有機溶剤、亜硝酸エステル、タバコ)及び調査後に違法薬物に指定されたケタミンを含めた。

この評価プロセスは実用可能であることが証明され、二つの独立した専門家グループによる得点と順位の評価は概ね一致していた。また、我々が順位付けした薬物の有害性と現行の法規制による違法薬物の分類には差異が見られた。我々の方法論は、各国の規制当局が、現在及び将来の薬物乱用の有害性を評価するための体系的なフレームワークと手続きを提供する。

序論

薬物乱用は、現代社会における社会的、法的、及び公衆衛生上の主要な課題の一つである。イギリスでは、薬物乱用による健康問題や社会問題、犯罪への対処にかかる総負担額は年間で10億ポンドから16億ポンドと試算されており、世界規模での負担はこれに比例して莫大なものとなっている。

薬物乱用に対する現在の主要な対策は、(警察と税関による)供給の禁止、教育、そして治療の三つである。これら三つのアプローチ全てが、それぞれの薬物の相対的有害性について明確な基準を必要としている。

現在イギリスでは、違法薬物の取締りや刑罰は1971年薬物乱用法の規定に基づいており、教育や医療の提供は、名目上、特定の薬物の既知の作用とその有害性に合わせたものとなっている。殆どの国や国際機関(国連やWHO)がそれぞれの違法薬物の分類システムを持っているが、その基準は多くの場合公開されていないか、公開された場合でも曖昧かつ不透明であり、一見恣意的に見えるものも多い。

この明確性の欠如は、有害性の推定について考慮しなければならない要素の膨大さと複雑さ、及び科学的根拠が多くの関連分野で制限されているだけでなく、漸進的かつ予測不可能な方法で発展していることを原因の一部としている。

現在のイギリスの薬物乱用法も同様であり、違法薬物はその危険度の順にクラスA、クラスB、クラスCに分類されている。また、この分類に基づき違法薬物の輸入・使用・所持に対する刑罰の軽重や取締りの厳しさが決定されているが、現在の分類は非体系的かつ恣意的であり、その科学的根拠は殆ど無いように見える。

そこで我々は、事実と科学的知見に基づいた、個々の薬物の潜在的有害性を評価するための新しいシステムを提案する。このシステムは、既存の薬物の有害性について、その研究の発展に対応することができ、新たに登場するストリートドラッグの危険性なども評価することができる。

有害性のカテゴリ

いずれの薬物にも共通して決定できる有害性の要因が三つある。:薬物使用によって引き起こされる身体的有害性:薬物の依存を引き起こす力の強さ:家族や社会に与える影響の大きさの三つである。

身体的有害性

薬物の身体的有害性、すなわち、臓器や身体組織に対する有害性の評価は、その安全域だけでなく、長期の継続的摂取によって生じる健康問題も考慮しなければならない。生理学的機能(たとえば心臓や呼吸器官)に対する薬物の影響は、身体的な有害性を判断する上で主要な評価基準である。

薬物の投与経路もまた有害性の評価に関連している。静注可能な薬物(たとえばヘロイン)は、呼吸抑制によって突然死を引き起こす危険性があり、それ故、これ等の薬物は急性の有害性を表すいずれの指標でも高得点を示す。

他方、タバコとアルコールの常習的な摂取は将来の疾患や死亡を引き起こす高い危険性を持っており、近年提出されたエビデンスによれば、紙巻きたばこの長期摂取は平均して寿命を10年縮めることが示されている。また、イギリスでは薬物関連の死亡原因の90%をタバコとアルコールが占めている。

医薬品・医療製品規制庁(MHRA)及びそれに類するヨーロッパ、アメリカ、その他地域の各機関は医薬品の安全性を評価する確立された手法を持っており、これを危険性評価の基礎とすることができる。実際、乱用薬物のいくつかは医薬品としての認可を受けており、その安全性も既に評価されているが、殆どのケースにおいてそれは何年も前のことである。

ここで、身体的有害性の三つの側面を定義することが出来る。第一に、急性の身体的有害性(即効性のものであり、たとえば、オピオイドによる呼吸抑制やコカインによる急性心臓発作、中毒死)である。薬物の急性毒性はしばしば致死量に対する治療量の比率(安全域)で測定される。我々が調査した殆どの薬物でこのデータを利用することができた。第二に、慢性の身体的有害性(常習的使用の結果であり、たとえば覚醒剤による精神病、大麻による肺疾患)である。そして最後に、静脈注射に関連する特定の問題がある。

薬物の投与経路は、急性毒性だけでなく所謂"secondary harms"にも関連している、たとえば、静脈注射による薬物使用は肝炎ウイルスやHIVの感染を拡大させる可能性があり、これは使用者個人だけではなく社会全体の健康問題となりうる。静脈注射の問題は現在の薬物乱用法でも考慮されており、我々の調査においてもこれを個別のパラメータとして取り扱っている。

依存性

この有害性には相互依存的な要素、すなわち、その薬物の快楽の強さとその薬物自身の依存形成力が含まれる。一般に、オピオイドやコカインのように強い快楽をもたらす薬物は乱用されるのが常であり、薬物の市場価格はこの快楽の強さによって決定されている。

快楽を引き起こす薬物の作用には二つのものがある。一つは、薬物投与後に急速に生じる効果(通称"ラッシュ")であり、もう一つが、これに続いてしばしば数時間持続する多幸感(通称"ハイ")である。薬物の成分が脳に届く時間が早いほどラッシュの効果も強くなり、これがストリートドラッグの摂取において喫煙、静注が好まれる理由でもある。どちらの摂取方法も投与から30秒以内に脳に届く。

ヘロイン、クラックコカイン、タバコ(ニコチン)、大麻(テトラヒドロカンナビノール)といった薬物はこれらの迅速な経路によって投与されている。粉末状のコカインを鼻粘膜から吸収する場合も同様である。経口投与は唯一効果の発現を遅らせる摂取方法であり、一般に効果は弱くなるが、その持続時間が長くなる。

薬物乱用の本質的特質は、その常習性にある。この性質には様々な要因とメカニズムが関わっており、薬物による特別な体験は確かにその理由の一つである。たとえば、幻覚剤(リゼルグ酸、LSD、メスカリン等)の場合、おそらく幻覚体験がその使用の唯一の理由であり、これらの薬物はそれほど頻繁に摂取されることはない。

その対極にあるのがクラックコカインやニコチン等の薬物であり、これらの薬物は殆どの使用者に極めて強い依存をもたらす。身体的な依存には耐性の増加(すなわち、同じ効果を得るために必要とする摂取量が徐々に増える)、激しい渇望、薬物使用を中止した際の離脱症状(たとえば、振戦、下痢、発汗、不眠症)が含まれる。

これらの作用は薬物使用によって脳の器質的、適応的な変化が生じたことを示している。依存性の高い薬物は頻繁に、繰り返し使用される傾向にあるが、それは部分的には薬物に対する渇望のためであり、部分的には離脱症状を避けるためである。

精神的依存も同様に、薬物の繰り返しの使用によって特徴づけられるが、身体的依存とは異なり直接の身体症状や耐性の増加は見られない。実際に、長年の大麻使用を中止してもその離脱症状は数日間しか持続しない。いくつかの薬物、たとえばベンゾジアゼピンは耐性が増加することなく精神的依存を生じ、投与が中止されるという恐怖だけで身体的な離脱症状が生じる。

この種の依存は中毒症状よりも十分に研究されておらず、理解もされていない。しかし、投与する薬物の量を一定に保ったうえで、使用者に投与量を減らしていると説明するだけで身体的な離脱症状が生じることが確認されており、その意味で使用者にとっては本当の体験と変わりがない。

依存と離脱症状を引き起こす薬物の性質は合理的に定義することができる。半減期の短い薬物ほど激しい離脱症状が生じ、また、薬力学的効果の強い薬物ほど強い依存が生じる。そして、耐性の増加が大きくなるほど離脱症状も大きくなる。

多くの薬物において、動物実験で観察された結果と人間に生じる症状には良好な相関がある。また、同じ分子特異性を持つ(すなわち、脳内の同じ標的分子に結合、または相互作用する)薬物は類似した薬力学的効果を持つ傾向にある。したがって、新しい化合物の作用について、それを人間に投与する前にある程度合理的な予測をすることが可能である。

薬物の依存性は、それが古いものであれ新しいものであれ、既に使用している人にしか実験的研究が行えないため、一般に使用される薬物については人口ベースの推定が行われてきた。これらの推定は喫煙が最も依存性の高い一般的薬物であることを示しており、ヘロインとアルコールがそれに続く。他方で幻覚剤の依存性は低い。

社会的有害性

薬物は様々な経路で社会に悪影響を与える。たとえば、その毒性の様々な態様、家族や社会生活への損害、医療費や取り締りに係る費用等である。特に、激しい中毒作用を持つ薬物は使用者や周りの人、財産等に甚大な損害をもたらすことがある。

たとえば、アルコールの酩酊作用はしばしば暴力的なふるまいを引き起こし、車両事故やその他事故の一般的原因でもある。多くの薬物は使用者の家族にも影響を与える。乱用薬物は使用者の生活の動機を歪め、家族を遠ざけ、犯罪を含む薬物に関連した行動に従事させるようになる。

いくつかの薬物は計り知れないほどの社会的損失を生み出す。タバコは病院の疾患原因の最大40%を、薬物関連疾患については最大で60%を説明するとされる。アルコールによる何らかの事故、救急部門、整形外科への入院は全ての受診者の過半数を占めている。ただし、これらの合法的な薬物は税収によってその損失を幾ばくかは補填することができる。

静注可能な薬物にはまた別の問題がある。これらの薬物は針の使いまわしや性交渉によってHIVや肝炎の感染を拡大させることがある。最近になって普及した薬物、たとえば"エクスタシー"やMDMAとして知られる3,4-メチレンジオキシ-N-ヒドロキシ-N-メチルアンフェタミンの長期的な健康・社会的リスクは現在のところ動物実験によってしか推定できない。もちろん、全ての薬物使用は社会的有害性をもたらしうる。

有害性の評価

Table1は我々が作成した評価マトリクスである。これには上述の通り、三つのカテゴリが設定されており、各カテゴリが三つのサブカテゴリを持つことで計九つのリスクパラメータが設定されている。評価者はそれぞれの薬物について、九つのパラメータを4件法(0=no risk, 1=some, 2=moderate, and 3=extreme risk)で評定することが求められる。いくつかの分析では、それぞれのメインカテゴリについて、サブカテゴリの単純な平均を使っている。また、考察のためには、九つのパラメータの全体の平均を使っている。

パイロット版の試行はRunciman Reportのメンバーによって行われた。このパイロットテストにより一度リファインされ後、追加のガイダンスノートを添えて、Table1に基づいた質問票が使われた。評定は二つの独立した専門家グループによって行われた。

最初のグループは英国王立精神科医学に薬物嗜癖の専門家として登録されている精神科医のグループである。評定を求めた77人の登録医師の内29人から返信を受け取り、14の薬物(ヘロイン、コカイン、アルコール、バルビツール酸系アンフェタミン、メサドン、ベンゾジアゼピン有機溶剤、ブプレノルフィン、タバコ、エクスタシー、大麻LSDステロイド)の評定及び分析が実施された。

タバコとアルコールを含めたのは、その過剰摂取のリスクについての信頼できるデータが既に蓄積されており、他の薬物の絶対的有害性を判断することができるためである。ただし、タバコとアルコールを他の薬物と直接比較することはできない。合法の薬物は様々な点で、特にその入手が容易であるという点において有害性の評価に影響を与えているからである。

この評価マトリクスが十分に機能することを確認した後、より幅広い専門性を持つ専門家によって構成された第二のグループによる会議を開催した。これらの専門家には化学、薬理学、法科学、精神医学、疫学を含むその他専門家、及び法律・警察関係者が含まれ、評価はデルファイ法に基づく一連の会議によって行われた。

このアプローチは、問題とその影響が極めて広範であり、正確な測定や実験が困難な分野において、知識を最適化するために広く使用されている方法である。これは医療問題においてコンセンサスを形成するための標準的な方法となりつつある。デルファイ法による分析には、様々な分野の専門家による高度な知識が組み込まれているため、薬物乱用や依存症のように複雑な問題を分析するには理想的な方法である。

最初の評定は各参加者が独立して行った後、会議の場で全員に提示され、外れ値の理由を解明することに特に重点が置かれた。個々の参加者はこの会議の結果に照らしてスコアを修正し、その後、最終的な平均スコアが計算された。このプロセスの複雑さは、1回の会議では僅かな薬物しか評価できないことを意味しており、最終的には4回の会議によって全体の評価が完了した。会議に参加したメンバーの数は各回8人から16人であったが、専門家の多様性は維持している。

この第二セットでは最初の十四の薬物に加えて、完全性を期すため六つの薬物(カート、4-MTA、GHB、ケタミンメチルフェニデート亜硝酸エステル)が追加された(Table2)。いくつかの薬物は違法ではないが、乱用の報告があったために追加している。参加者は知識を更新し、自らの意見を熟考できるよう、各会議では事前に対象となる薬物が伝えられ、最新のレビュー記事が提供された。

特定の薬物の特定のパラメータについて、スコアを付けることができない参加者もいたが、この欠損値は分析では無視している。すなわち、ゼロとして扱っているわけではなく補間もしていない。データはMicrosoft Excelの統計機能とS-plusによって分析された。

結果

このリスク評価システムは、アンケート及び議論の両面で簡便かつ実用的なことが示された。Figure1は20の化合物について、全てのカテゴリスコアを平均したものをランク順に並べたものである。薬物乱用法による分類も同時に表示している。

最も有害性の高い二つの薬物(ヘロイン、コカイン)は薬物乱用法でもクラスAに分類されているが、他の薬物については同法の分類との間に驚くほど相関が無い。我々の評価で上位八つの薬物と下位八つの薬物は、いずれも三つがクラスA薬物であり、二つは未分類の薬物である。

アルコール、ケタミン、タバコ、有機溶剤(いずれも調査時点では未分類の薬物)はLSD、エクスタシー、4-MTAよりも有害性が高いと評価された。実際、薬物乱用法による分類と我々の有害性ランクとの相関に有意差は無い(Kendallの順位相関 -0.18; p=0.25; Spearmanの順位相関 -0.26, p=0.26)。

未分類の薬物では特にアルコールとケタミンに高いスコアが与えられた。興味深いことに、つい最近、薬物乱用諮問委員会(ACMD)がケタミンを薬物乱用法の指定薬物にするべきと勧告し、これが承認されている。

我々は、両方のグループで評価された14の薬物について、その平均スコア(九つのパラメータの平均スコア)を比較した(Figure2)。二つのグループの評価は概ね一致しており、スコアの妥当性と堅牢性が示された。

Table3に示したのは第二グループの評価の結果である。それぞれのサブカテゴリの平均スコアとカテゴリの平均スコアが示されており、各薬物は全体の平均スコア順に並べられている。多くの薬物は三つのカテゴリそれぞれの順位が一致していた。

たとえば、ヘロイン、コカイン、バルビツール酸系、ストリート・メスはいずれのカテゴリにおいても上位5位を占めている。他方で、カート、亜硝酸エステル、エクスタシーはいずれのカテゴリにおいても下位5位の評価しか与えられていない。

いくつかの薬物はカテゴリ間の順位に明らかな違いがある。たとえば、大麻は身体的有害性については低いスコアとなっているが、依存性と他者に対する有害性はいくらか高くなっている。アナボリックステロイドは身体的有害性が高いが依存性は低い。タバコは高い依存性を示すものの、それに比して社会的有害性は明らかに低くなっている。これはタバコの中毒性スコアが低いためである。

また、タバコの身体的有害性の平均スコアは中程度となっているが、これは急性毒性、静注の有害性が低い一方で、驚くことではないが、長期的使用の有害性が極めて高いためである。

静注可能な薬物は概して高い順位となった。これは、単にカテゴリ3(すなわち、静注のされやすさ)とカテゴリ9(医療費)において極めて高い得点が与えられたことだけが原因ではない。仮に、この二つのスコアを分析から除いたとしても、これらの薬物はなお高い順位のままである。したがって、静注可能な薬物は、その他多くの面で極めて有害性の高い薬物であると判断することができる。

考察

我々の研究の結果は、現在の薬物乱用法におけるA,B,Cクラスというはっきりした分類を正当化しない。もちろん、明確なカテゴライズは取締り、教育、社会的支援における優先順位の設定、違法薬物の所持や取引の量刑を決定する上では有用である。

しかし、我々がここで示したより完全な有害性評価は、薬物のランク付けも、それに基づく薬物乱用法の分類も、どちらも支持しない。いかなるランキングにおいても、明確に定義されたカテゴライズは、明らかな不連続性が確認されていない限り本質的に恣意的なものである。

Figure1はそのような不連続性を僅かに示唆しているだけであり、分布のほぼ真ん中、ブプレノルフィンと大麻の間に小さな段差がある。興味深いことに、アルコールとタバコはどちらも上位10位内に入っている。また、アルコール以降の薬物で有害性スコアが加速度的に増加している。

したがって、敢えて従来の区分と同じく三つのカテゴリによって分類するならば、アルコール以上の薬物をクラスA、大麻以下の薬物をクラスC、その中間の薬物をクラスBとすることが考えられる。これは、最も広く使用されている合法薬物であるアルコールとタバコが、それぞれクラスA、クラスBの薬物に匹敵する有害性を持っていることを確認できる点で有益である。

参加者は薬物の有害性を評価するにあたり、その薬物が通常使用される形態での評価を求められた。しかし、いくつかのケースでは、特定の薬物の有害性をその使用方法の干渉要因から完全に分離することはできなかった。

たとえば、大麻は一般にタバコと混ぜた上で喫煙されるが、これが身体的有害性と依存性のスコアを引き上げた可能性がある。多剤併用に係る不確実性はさらに大きく、特に、混合物として一般に使われるGHB、ケタミン、エクスタシー、アルコールを含むいわゆる"recreational group"が主としてその副作用を引き起こしている可能性がある。

クラックコカインは一般に粉末状のコカインよりも危険性が高いと考えられているが、この研究では両者を分けて評価することはしなかった。同様に、ベンゾジアゼピンの評価は、最も乱用されているテマゼパムの使用に偏っていた可能性がある。我々の、或いは別の評価システムにおいても、公式に使用される場合はベンゾジアゼピン系の薬物は個々に評価し、他の薬物についてもその使用形態を考慮することがより適切であると思われる。

独立したスコアが少数であることを鑑みて、九つのパラメータ間の相関は推定しなかった。冗長性が存在する可能性が非常に高い――すなわち、九つのパラメータの値が、九つの独立した測定値を表していないということである。

同様に、パラメータの主成分分析も行わなかった。一つは不十分なデータしか存在しないことが理由であり、もう一つは、さらなる調査によって評価システム全体の妥当性が検証されるまでは、パラメータの数を減らすことは適当ではないと考えたからである。

我々の分析では各パラメータに同等の重みが与えられ、個々のスコアは単純に平均された。このような手順においては突出した急性毒性を持つ薬物の有害性を適切に評価できない可能性がある。たとえば、MPTP(1-メチル-4-フェニル-1,2,3,6-テトラヒドロピリジン)を含むデザイナーズドラッグは、単回投与で大脳基底核黒質を著しく損傷し、重度のパーキンソン病を引き起こす。

実際、この単純なスコア算出方法では、一つの側面だけが著しい有害性を持つ薬物を適切に評価できない可能性がある。タバコを例に挙げると、30歳以上での喫煙は平均余命を最大で10年縮めることが示されている。喫煙は薬物関連の死亡の最も一般的な原因であり、医療サービスに大きな負担を与えている。しかし、タバコの短期的な有害性と社会的な影響はこれに比して大きなものではない。

もちろん、特定のリスクを強調するために、その重要度に応じてスコアの重み付けを変更することもできる。多基準意思決定分析など他の分析方法を使うと、異なるパラメータ間の順位の違いを説明することができるようになる。これらの解釈についての留保、及びパラメータの重みづけについての考慮の必要性にも関わらず、各スコアラー間でパラメータの値が概ね一貫していたことは特筆すべきである。

我々の調査結果は、薬物乱用法の分類が名目上は使用者と社会に対する危険性から決定されているという事実に疑問を投げかける。特に、幻覚剤の評価についてその食い違いは顕著なものとなっている。また、我々の調査結果は、アルコールとタバコが薬物乱用法から除外されていることは科学的観点から恣意的であることも強調している。

我々は、社会的に許容されている薬物と違法な薬物の間に明確な区別を見出すことはできなかった。この二つの最も一般的に使用されている合法的な薬物が、我々の評価では上位半分に位置しているという事実は、違法薬物についての公開討論でも考慮されるべき重要な情報である。先入観や仮定ではなく正式な評価に基づいた議論は、社会が薬物の相対的な危険性についてより合理的な議論を行う上での助けとなる。

我々は、専門家の評価による科学的根拠に基づいた分類システムが推奨されるべきであると考える。我々のアプローチは、薬物の危険性について包括的かつ透明性の高い評価システムを提供している。また、このアプローチはこれまでの研究の蓄積の上に構築されているが、デルファイ法を通じて幅広い分野の専門家による知見を利用することで、より多くの薬物の様々な危険性を考慮することができている。

このシステムは厳格かつ透明であり、薬物の有害性について正式かつ定量的な評価を含んでいる。また、研究の進展によって得られた結果を再適用して評価を更新することも容易である。MacDonaldらも薬物の有害性評価システムを考案しており、彼らのシステムは我々のスキームを補完するものとなっているが、まだ特定の薬物に適用されたことは無い。

その他の組織(たとえば、欧州薬物・薬物依存監視センター、オランダ政府のCAM委員会)は現在、それぞれのリスク評価システムを開発中であり、そのいくつかは数値ベースのものである。他にもデルファイ法を利用しているシステムはあるが、我々ほど幅広い薬物について、包括的なリスクパラメータを使っているものは無い。我々のシステムは、薬物乱用諮問委員会や欧州医薬品庁などの規制当局が、薬物の分類についてエビデンスベーストな決定を行うのを助けることができると考える。