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若者論の構造③―若者論に反論できるのか(できない)

無理

前節までは日本における若者論の構造を概観してきた。それでは,若者論にはどういった反論が有効なのだろうか。結論を先に示せば,若者論に反論することは無理、或いは極めて難しいと言わざるを得ない。何故ならば,若者論が本当に求めているのは,他者が自分たちと同じ存在になることだからだ。

前々節ではありとあらゆるカテゴリの若者論を容易に作成することが可能であることを論じ,前節ではそれが「二極化」「二面性」というロジックで処理されることを説明した。つまり,上でも下でも右でも左でもダメなのである。このことが,個々の若者論に対して実証的な反論を行うことを困難にしている。

たとえば,「攻撃的な若者」が増えていないことを示すために少年犯罪の統計を出しても,今度は「覇気のない若者が増えた」という言説に利用され,あるいは,性的モラルの崩壊を嘆く若者論者に,青少年の性交渉が高年齢化しているデータを出したところで草食言説の補強材にされる,といった具合である。

求められているのは「同一の存在になること」だ。まったく同じ世代など存在するはずもないもないのだから,若者論が消えてなくなることもない。

道徳を相対化してみる

個々の言説に直接反論することが難しいのであれば,いっそのこと若者論が前提している「道徳的語彙」を相対化してはどうだろうか。つまり,個々の若者論自体の実証性は措いておき,仮にそれが事実であっても「だからどうした」と開き直るのである。

前提が間違っていれば,その結論としての若者論の真実性は議論する必要がなくなる。高校生がセックスしようが,友達が少なかろうが,それの一体何が問題であるというのだろうか。

しかし,この方法には無理がある。第一に,道徳的価値観の中にはその妥当性が自明でないものも含まれているが,大抵の場合,思慮・勇気・節制・正義のように倫理というものは普遍的な価値をもっている。「頑張らなくたっていいじゃないか」「バカでもいいじゃないか」という主張が広く合意を形成することは難しい。

第二に,そもそも人の価値観・倫理観を変えることは一般に困難である。まして,自分に不都合なものになるのであれば,それを容易に認める人間はいないだろう。思いつきで他人を攻撃する人間も,自分が攻撃されればやっきになって反論するものである。

第三に,若者論の実証性を無視することは,結局のところ若者論者の意に沿うものでしかない。先述したように,若者論者は別に社会や日本を憂いているわけではない。ただ「自分たちとあいつらは違う」と主張したいのである。「違っていても問題ない」は通じない。そもそも違っていることが問題なのだ。

若者論のアキレス腱―いいがかり資源

ところで話は変わるが,実は日本の合計特殊出生率が2を超えていて,実質GDP成長率は世界1位で,移住したい国ランキングでは10連覇を達成していたらどうだろうか。これまでの人口問題や経済問題に関するあらゆる言説が雲散霧消するだろう。つまり,議論の大前提となっているものを破壊すれば,その上に築かれた上や下や右や左の議論は全て無効化されてしまうということだ。

それでは,若者論における議論の大前提とは一体何であるのか,ここでは前々節で紹介した内藤の言葉を借りて「いいがかり資源」と言い換えよう。若者論のアキレス腱になり得るいいがかり資源とは一体何か。

言いがかり資源は内藤の言うように比較的不変であるものが選ばれる。それは「少子化」や「ネット社会」のように容易に確認できる事実であることもあれば,或いは「ポストモダン」「再帰的近代」のようにアカデミズムの世界で権威づけられたものが流用されることもある。

すなわち,若者論者の妄想の産物である若者論とは違い,言いがかり資源それ自体は一定の「確からしさ」を持っているということだ。いいがかり資源はその頑健さから,何度でも再利用され若者論というゴミを再生産し続けるのである。いいがかり資源が「資源」たる由縁である。

しかし,いいがかり資源は比較的不変であるといっても,道徳や倫理といったものほど普遍的で強固なものではない。子どもが増えているのであれば「少子化」ではないし,インターネットが存在しない社会に「ネット社会」は存在しない。当たり前である。

しかし,その当たり前が重要だ。もし,いいがかり資源が事実でないならばどうなるのか。その言いがかり資源の上に築かれていた若者論は,「右も左も」その妥当性を失うことになる。若者論の屋台骨でもあり,アキレス腱でもあるのは「いいがかり資源」をおいて他にはない。

ゆとり言説のいいがかり資源

全く話は変わるが,この文章は5,6年前に書いたので,以降は若者論の中でも特に「ゆとり言説」についての記述が中心となっていた。が,その「ゆとり世代」もアラサーになってしまった現在,わざわざ書き残す必要も無いと思われるので,ゆとり言説のいいがかり資源を爆破する記事を以下にまとめて本稿は終了とする。

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