若者論を研究するブログ

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オウム真理教及びその後継団体の新規信者数について

新興宗教にあっさり騙されるレベルのはてなーリテラシー
論破王・ひろゆき氏 「2ちゃんねる」を知らない若者世代からの支持も(NEWSポストセブン) - Yahoo!ニュース

例えは悪いけど、地下鉄サリン事件を知らない世代がオウムの後継団体にあっさり勧誘されるアレみたいな気味の悪さを感じる。/そも「論破」と主張しているだけで実際は論点ずらしてるだけだし。

2021/03/22 23:43

これがトップブコメになるのだからはてなーリテラシーは全く絶望的である。この馬鹿しか信じないような珍説を公安調査庁が初めてお披露目したのは「平成23年版内外情勢の回顧と展望」においてである(平成〇〇年版報告書はその前年の記録に基づく)。以下引用する。

以上のような活動の結果、主流派においては、平成22年に入り、教団報告によっても90人以上の新規信徒を獲得した(上祐派と分かれて活動するようになった平成19年5月以降の約3年半では300人以上)。その内訳を見ると、平成21年同様、年齢別では青年層が、地域別では北海道及び近畿が目立った。青年層が増加している背景には、地下鉄サリン事件から15年以上経過し、教団の実態を知らない若者が増えてきているとの事情があると考えられることから、主流派の勢力拡大に向けた動きには注意を要する。

まず初めに確認しておきたいのだが、この主張に根拠は無い。入信した若者にインタビュー調査等を実施しているわけでもなければ、そもそもオウム真理教及びその後継団体が若年層を中心に勧誘を行っているのは、平成13年版「内外情勢の回顧と展望」から公調が指摘し続けていることである。また、後述するがこの報告書における新規信者数がどのようにカウントされているのかも不明である。

一方で、当該報告書では2010年代以降、毎年のようにオウムの後継団体が100人前後の新規信者を獲得していると報告されており、これは各全国紙でも度々報道されている。それではこの20年間のオウムとその後継団体の信者数の推移を確認してみよう。

平成12年:1650人

令和02年:1650人

はいそういうわけである。念のため注記しておくと、これは別に信者の死亡等により入れ替わりが生じているわけではない。団体の構成員が高齢化しているのは事実だが、平成22年版報告書の時点で教団の構成員は40代が中心であり、60代以上の信者は1割もいない。また、H12~H18, H25~R2の期間の信者数は報告書では常に1650人とされている*1。毎年のようにぴったりと数が入れ替わっていると考えるのは不合理であり、普通に読めばこの20年間、オウムとその後継団体の信者実態は変わっていないと考えるべきである。

それでは何故このような事態が生じるのだろうか。報告書では確かに毎年100人前後(たまに200人以上)の新規信徒の存在を確認しているのである。報告書の記述を信じるならば、10年前と比較しても既に1000人以上は信者が増えているはずである。実は、この謎を解くヒントもまた報告書の記述の中に隠されているのである*2

平成26年(2014年)中,公安調査庁が教団から提出を受けた組織や活動の現状に関する報告においても,130人の新規信徒を報告した。ただし,獲得した信徒の全てを組織に定着させるまでには至っておらず,比較的短期間で脱会する者も生じた。平成27年版内外情勢)


このうち,国内の信徒については,教団が組織的な勧誘活動を活発に展開した結果,平成 27年(2015 年)中,約 100 人の新規信徒を入会させたものの,これら信徒を含め在家信徒の中には,組織に定着するに至らないなどして脱会する者も多数に上ったことから,信徒数は,平成 25 年(2013 年)から横ばいとなった。平成28年版内外情勢)

(引用者注:平成25年から平成30年の総信者数は各年1650人で変化はない)

はいそういうわけである。ギャグみたいな記述だがこれも公調式悪魔の算術だと各年100人累計200人以上の信者増加(増加とは言ってない)になるのだ。そもそも公調自身がオウムの勧誘が巧妙化している証拠として「教団名を秘匿したヨガサークルや仏教研究会を入り口に勧誘活動を展開している」ことを毎年のように屡述しているにもかかわらず、同じ口で何を言っているのだろうか。「ヨガか、いいね」→「オウムやん」となるのは必然の結果である。

念の為、公調が「100人以上の信者増加」と言い始めた平成22年版報告書から新規信者数の推移を確認してみよう。

平成21年 122人
平成22年 108人
平成23年 213人
平成24年 255人
平成25年 不明
平成26年 130人
平成27年 約100人
平成28年 約130人
平成29年 100人を超える
平成30年 100人に近い                                令和元年 90人                                    令和02年   60人以上(Aleph)

注:平成23年以前の数値は平成24年版内外情勢による

この1000人を超える新規信者は一体どこに消えてしまったのだろうか…「オウムを知らない若者」という神話生物を騒ぎ立てる人の知能程度に合わせれば、これは恐らくオウムの残党が未だに事件を反省せず脱会しようとする信者を闇に葬り去っているのだと考えられる。公調は一刻も早くこの事件を調査するべきだ。

常識的に考えろ

もうちょっと真面目に考えてみよう。こんな馬鹿げた妄想を信じる前に、まずはもっと当たり前の、つまらない現実に目を向けるべきだ。つまり、「オウムを知らない若者がオウムに入信する」よりも「オウムを知っている若者が(それ故に)オウムに入信する」可能性の方が遥かに現実的である。これが分からない人の頭は残念ながらワイドショー仕様になっているのだろう。当たり前のことを当たり前に考えることができなくなっているのだ。世の中は人が犬を噛むような面白おかしい珍奇な話ばかりで溢れているわけではない。

実際にこの仮説にはある程度の裏付けもある。平成18年版内外情勢によれば、この時点で在家信徒(1000人)の約3割が地下鉄サリン事件以降に入信した信者である。また、現実に信者数の著しい増加が見られたのは平成9年(1000人)から平成12年(1650人)の時期である。

勿論この急激な増加には一時離脱していた信者が戻ってきたという部分もあるだろうが、事件の興奮未ださめやらぬ中(メディアによって喧伝された)オウムの教義に理解を示した者、或いは反社会的闘争(逃走)の象徴としてのオウムに共感を抱いた者、或いは…まあとにかく未だオウムが強烈にその存在感を発揮していた時期に(正にそれ故に)入信した人間も数多含まれていたであろうことは想像に難くない。1650人という数字がその後20年近く変化していないことを考えればなおさらである。

付言すると、公調はもう少し考えてから報告書を書いた方が良い。もし本当に何も知らない人が公正中立の立場であの報告書を読めばオウムの余類に同情する人も多いだろう。それこそ教団側から不当な弾圧の証拠として勧誘材料に使われかねない。「オウムを知らない若者」という奇説を本当に信じているならば、情ではなく理を尽くすべきである。

報告書の数字はどのようにカウントされているのか

そもそも報告書の数値は公調が調べた結果ではなく教団が報告した数字である。したがって「オウムに騙される若者が増えた」と信じている人は正にオウムに騙されているわけである。と、思っていたのだが、うーん…これが良く分からない*3。まずは平成13年版報告書の信者数を引用すると「構成員は出家信徒554人、在家信徒597人の計1,151人(平成12年11月15日現在)」だそうである。一方で平成21年版報告書のグラフによると平成12年1月の観察処分決定時の信者数は1650人である。まあ、なんか、よく分からないけど、時期も少しズレているし何かあるんだろうと勝手に思っていたが、これについて当のオウム側(Aleph)が言及していた。以下引用する。

公安審査委員会のこの決定を受けて、その後公安調査庁は、構成員数を一気に数千人分切り下げざるを得なくなくなりました。

したがって、破防法棄却の時点(97年1月)では、対象団体の構成員をあくまでも「オウム真理教に所属する出家及び在家信徒」に限定することによって、対象となる「団体」とオウム真理教との間に等身大の関係(=不即不離)が一応成立していたと見ることができます。

しかし、公安審査委員会は、その後制定された団体規制法による観察処分の原決定(00年1月)において、公安調査庁が具体的な根拠を示すことなく主張する「構成員約1650人」という数字をそのまま追認する決定を行ないました。一方、当時、実際にAlephに所属していた会員数は、これよりも500人少ない1146人でした。

拡張される団体規制 ~「構成員不詳」「主宰者不在」の架空団体への観察処分[1-(2)]


公安調査庁が発表する「本団体」の構成員の数は、常に、わたしたちが把握し報告している人数と懸け離れたものでした。今回の請求でも、わたしたちAlephが報告している会員数と、ひかりの輪が報告している会員数を足し合わせても、国内で467人、ロシアで172人の隔たりがあり、公安調査庁が発表する数字には遠く及ばないのです。この差は一体何なのでしょうか。

これについては長年、疑問に思ってきましたが、今回の請求で、驚くべきことが明らかになりました。公安調査庁の証拠(証1-5)において、公安調査庁がいう「構成員」がどのように扱われているのかが明記されていたのです。すなわち、

公安調査庁が把握している構成員の名簿については、これが本団体側に渡った場合、公安調査庁の構成員認定基準や調査能力等が本団体側の知るところとなり、今後の調査に重大な支障を生じるおそれがあるので、本調査書には、構成員名簿を添付しない。」

というものです。これによって、「本団体」側や公安審査委員会にすら明かされない、公安調査庁が独自に認定し、作成している「構成員名簿」の存在が判明したのです。

しかし、「構成員」である以上、当然、観察処分を受けている「本団体」側に報告義務があるわけですから、「本団体」側の構成員報告に漏れがあれば、公安調査庁は「本団体」側に対して、欠けている構成員名や「構成員認定基準」などを示し、正確に報告するよう指導をしなければならないはずです。にもかかわらず、「本団体」側に対してその名簿や認定基準を知られまいとするというのは、本末転倒した話です。この法律が全く想定していなかった事態が生じているのです。

2009年1月13日口頭意見陳述

ダメだ。分からない。公調の言い分を信じるならば毎年100人以上、累計で1000人以上増えているはずの信者がどこかに消えていることになるし(上述の通り短期脱会だろう。そもそも入会しているかどうかも怪しい)、オウム側の言い分を信じるならば公調の発表する数字は全く信憑性が無く実態はその3分の1程度ということになる。「危険団体の信者数」という極めて重大な部分で齟齬が生じているのだが、これを指摘している人が誰もいないのは一体どういうわけなのか。

 

追記

オウム真理教及びその後継団体の新規信者数について - 「趣味は若者論です」

あなたが引用している公安の報告書を素直に読むと「入信者と脱退者が拮抗しているため信者数は横ばい」となるのですが。数字の信頼性はともかく、アレフに引っかかる若者が存在する証拠の1つにはなるのでは?

2021/03/23 20:40

ご指摘ありがとうございます。もちろんその可能性もあるのですが、記事にも書いた通り、新規信徒100人前後の変動に対して毎年1650人で変わらないのは不合理であると私は判断しました(毎年入信者の数と同数の脱退者が生じると考えるよりも、そもそも定着する信徒が殆どいないと考えた方が合理的だという判断です)。

20年間で脱退者が0人というのも不合理なので、報告書の数字を信用するならば、仰る通りある程度の入れ替わりはあると思います。信者の年齢構成比は平成22年版報告書以外には記述されていないため、残念ながら詳しいことは分かりません。公調がもう少し詳細な報告書を出してくれると良いのですが…

 

*1:H19~H23の期間は一時的に1500人となっているが(H24の数値は不明)、これが教団の実態を示しているかは不明である。たとえば、報告書では平成22年版(H21の状況)から若年信者の増加が記述されているが、実際に総信者数が増加したのはH24かH25のいずれかである。ここでもやはり新規信者数と総信者数の間に食い違いが生じている。

*2:騙される馬鹿が悪いのであって別に公調は隠しているわけではない。

*3:報告書の記述によれば、少なくとも新規信徒数については教団側が提出している。