若者論を研究するブログ

打ち捨てられた知性の墓場

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コロナパニックでリテラシーの低さを露呈するはてなー達

猿でもわかる統計リテラシー

できるだけ分かりやすく説明する。ここに、それぞれ100名で構成される二つの集団A,Bがあったとする。そして、それぞれの構成員はその集団内で重複しない0~99の値を持つとしよう。これは、その人が持つ「ワクチンに対する正しい知識」の総量である。また、その補数を「ワクチンに対する間違った知識」の総量としよう。この集団A,Bに対し「コロナワクチン接種を希望するか」というアンケートをとった時、どのような結果になるだろうか。

それぞれの集団における0~9, 90~99の値を持つ人の回答は予測しやすい。前者は確信をもって接種を希望しないだろうし、後者もまた確信をもって接種を希望するだろう。それでは40~60あたりの人はどうだろうか。言い換えれば「ワクチンの正しい知識も間違っている知識もそれなりに持っている人」である。自分の持っている知識では確信が持てない以上、その判断は他の要素の影響を強く受けることになる。

ここで、先ほどの0~99の数値を「ワクチンを希望する確率」と読み替えてみよう。当然ながら、この確率は「ワクチンに対する知識」の多寡だけで決定されるわけではない。特に、ワクチンに対して確信的知識を持っていない人はなおさらである。たとえば、副作用の定量的なリスクは把握していないが、重症化のリスクならば良く知っている場合、アンケートに対する回答は後者のリスク判断に左右されるだろうし、年齢や性別によるリスク回避度の違いも回答に影響を与えるだろう。

と、(はてなーの読解力的に)長々と書いたが、こんなの説明されなくても分かるだろ…要は結果が二値でも説明変数はいっぱいあって君らが考えているようなクイズの正解・不正解の割合じゃないんだよということだ。余りこういうことは言うべきではないが、こんなのどこの国でやっても100%同じ結果が出るし、ついでに言うと性別でクロスしても間違いなく差が出るぞ(Suzuki et al. 2019;  久富 2016)。で、男性(女性)の知性が低いとか言っちゃうわけ?なぜネトウヨを笑えるのか不可思議極まりない。同レベルだろお前ら。

SNSについて

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仮に若年層の希望割合の低さがSNS以外にあるとしても相関は出る。何故ならば情報収集手段としてのSNS利用率は若年層の方が高いからだ(情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査)。これを誰も指摘していないことに呆れを通り越し恐怖すら覚える。

普段は自分の気に入らない調査結果に対して標本調査法など一度も勉強したことがないくせにサンプリングがおかしいと安易に断定したり計算方法を知りもしないサンプルサイズの問題だとか言ってみたりする素敵なはてなーさん達は一体どこにいってしまったんですか?疑似相関も好きですよね?ニコラスケイジとプールがどうのっていつもはしゃいでるじゃないですか。

動機の語彙

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「動機の語彙」とは、特定の社会状況のなかで、行為の正当性を自他にたいして受容させ、かつそれを理解可能とするために言及・参照される類型的な語彙としての動機である(藤原 2008)。相当の語弊はあるが超わかりやすく書けば、人間の行動は常に理解可能な内的動機が存在するとは限らず、一般に表明される動機はむしろ社会的承認のために選択された外的なものであるということだ。超超わかりやすく書けば「社会的言い訳」である。

この理論が典型的に当てはまるのは犯罪などの「社会的に望ましくない行動(=正当性を強調する必要がある行動)」の動機についてであり、近年は万引きを巡る議論の中でも取り上げられることが多い(大久保 2013; 東京都庁 2017)。この記事が出る1か月前にNATROM氏が指摘していたのも正にこの動機の語彙の理論である。

接種しない本当の理由は、注射は痛いからとか、単に面倒だとか、なんとなく嫌とか、だったとしても、問い詰められたら、「早すぎる開発・承認は信頼できない」とか「長期的な副作用が心配」とかもっともらしい答えを考えるだろう。どうかするとネット上で見かけた陰謀論の類いを答えるかもしれない。一度口にすると、一貫性を保つため、ワクチンが余るようになっても忌避し続けかねない。

ワクチンを接種しない人を批判してはいけない - NATROMのブログ

ちなみに

これは2001年に全国の18歳から69歳までの成人男女を対象に行われた、「科学技術の基礎的な概念の理解度」を調査した結果である。この調査はアメリカやヨーロッパの研究者と協力して開始した「科学技術の公衆理解に関する国際比較研究」の一環として行われ、日本では科学技術政策研究所が『科学技術に関する意識調査』として調査を実施した。したがってその結果は各国間で比較可能なものとなっている。

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ちなみに日本は平均正答率51%で15ヵ国中13位という堂々たる成績を収めた(結果が信じられなくて調査を2回やったくらいである)。まあ率直に言って、上記の設問は語句の定義が曖昧なものもあり、あまり良い設問とは言えない。わからない問題には素直にわからないと回答する割合が日本は他国と比較して高かったのかもしれないし、「男腹・女腹」のように文化的な差異が背景に存在しているのかもしれない。

ただし、いずれにせよ日本人の平均的リテラシーが(不思議なことに)一般に思われるより相当に低いという事実だけは読み取れる。冒頭の説明に戻れば、ワクチンに対して確信的な態度を示せる人は少数派ということであり、その判断は科学的リテラシー以外の要素に負うところも大きいと考えられる。

おまけ

新見公立短期大学の2006年度入学生と一般日本人の正答率の比較

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新見公立短期大学看護学科学生の高等学校における理科履修科目と科学リテラシーに関する調査(4) : ゆとり教育で科学リテラシーは低下したか?

引用・参考 

大久保 智生(2013)香川県における万引き防止対策に関する一考察 : 個人の規範意識の醸成から社会全体での万引き防止へ 心理科学 34(1), 39-52

Suzuki, Y., Sukegawa, A., Nishikawa, A., Kubota, K., Motoki, Y.,  Asai-Sato, M., Ueda, Y., Sekine, M., Enomoto, T., Hirahara, F., Yamanaka, T., Miyagi, E., (2019) Current knowledge of and attitudes toward human papillomavirus-related disease prevention among Japanese: A large-scale questionnaire study., J Obstet Gynaecol Res. May;45(5):994-100

東京都庁(2017)第6回万引きに関する有識者会議 議事概要 p.10

https://www.tomin-anzen.metro.tokyo.lg.jp/chian/kaigi/manbiki/

久富 真一(2016)ワクチン接種における意思決定のジレンマについて ビジネスクリエーター研究学会 第17回大会 

http://www.business-creator.org/wp-content/uploads/2011/01/161113_No.8.pdf

藤原 信行(2008)「動機の語彙」論再考 -動機付与をめぐるミクロポリティクスの記述・分析を可能にするために コア・エシックス (4), 333-344

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

仮にワクチンについての科学的知識を