若者論を研究するブログ

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若者のPC離れについて① PC世代である若者世代とPC離れが進む子供世代

若者のPC離れ

以下の表は『通信利用動向調査』において、「インターネットの利用機器」としてパソコンを選択した者の割合である(全体・複数回答可・無回答含む)。パソコン利用率はスマホが登場するまでは右肩上がりであり、かつ、スマホが爆発的に普及したのは2013年である。したがって、少なくとも2013年に大学を卒業した世代はそれ以前のどの世代よりもPC利用経験が豊富だと考えられる。学年としては1990/4/2~1991/4/1生まれの世代であり、この世代は現在28~29歳である(2020/1/10現在)。

 

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また、『青少年のインターネット利用環境実態調査』によれば、2009~2013年度の高校生のPC利用率は8~9割、その内の9割以上が高校入学より前にPC利用を開始しているため、2013年時点で高校を卒業した世代も十分にパソコンに慣れ親しんでいると考えられる。少なくとも、高校卒業時点でそれ以前の(ほぼ)全ての世代よりもPC利用経験が豊富なのは確かである。学年としては1994/4/2~1995/4/1生まれの世代であり、この世代は現在24~25歳である。 

子どものPC離れ

舞田先生は良く分からない主張をされることも多いが、これについてはコメントの方が頓珍漢であると思う。PISAの質問紙調査の結果は以下のページで公開されており、調べたい年度をクリックした後、compendiaのquestionnaireをダウンロードすれば各国の結果が確認できる。10分とかからないはずであり、この程度のことも調べられない人がPCスキルやITリテラシーについて語っているのは何とも不思議である。

Data - PISA

 

・なぜノートPC限定なのか

舞田先生がなぜノートPCの数字しか示していないのか私にも分からないが、PISA調査では当然ながらデスクトップPCの方も調べている。PISA2009の利用率は46%、PISA2018の利用率は37%であり、ノートPCの傾向と殆ど変わらない*1。ちなみに、ノートPCの利用率が最も高かったのはPISA2012であり52%となっている。

 

 ・金が無いから

これは本当に話にならない。先生も悲しんでおられる。元の設問では利用可能機器と実際の利用率を同時に尋ねており、「次のもののうち、自宅であなたが利用できる機器はありますか」という問いに対し、「はい、使っています」「はい、でも使っていません」「いいえ」の三択から選ぶことになっている。日本の利用率が低いのは先生も指摘する通りだが、それよりも際立っているのが「はい、でも使っていません」の割合の高さである。日本の値は33%となっているが、これは2位アイルランドの20%を大きく引き離している。当然ながらその他全ての国・地域は10%台以下の数値である。

 

 ・大人のリテラシーも低い

間違ってはいない。同じOECDによるPIAACでは、16~65歳の各年代いずれにおいても、ICT利用状況は全参加国中最低の水準となっている。また、総務省が平成9年に日米を対象に実施した情報リテラシー調査*2では、各年代で米国優位となっているが、なかんずく10代における日米格差が最も大きくなっている。日本の10代の情報リテラシーの低さは過去四半世紀を通じて一貫したものだろう。

 

スマホのせい

今の10代のスマートフォン所有率は他国と比較しても突出して高いわけではない。インターネットの利用時間は世界最低水準であり、娯楽や実用を目的としたデジタル機器(携帯含む)の利用実態は他国とさして変わらない。

 

・ゲームやチャットの利用率が世界一

ゲーム目的の利用率が高いのは事実だが、尋ねているのはあくまでもデジタル機器(携帯電話含む)の利用率であり、一人用ゲームの利用率が高い一方で多人数オンラインゲームの利用率は平均程度である。デジタル機器にはゲーム機も含まれるので、常識的に考えれば家庭用ゲーム機で遊んでいるのだと思われる。

また、チャットに関しては日本語の質問紙では例としてLINEが挙げられているため、割合が高くなるのは必然である。当たり前だが、代わりにEメールの利用率が突出して低く、日本の「まったくか、ほとんどない」の割合は61%、他国では40%に達したものさえない。

なぜ子どものPC利用率が低下したのか 

学校教育が原因である(多分)。PISA2018ではIC010Q01からIC010Q12の12の設問で学校の勉強に関連したデジタル機器の利用率を尋ねているが、いずれの設問においても日本の利用率は突出して低い。中でも、IC010Q10, IC010Q12では携帯電話・モバイル機器に限定した設問を置いているのでその結果を簡単に示す。

IC010:あなたは、次のことをするために学校以外の場所でデジタル機器をどのくらい利用していますか(携帯電話での利用も含む)。

【IC010Q10:携帯電話やモバイル機器を使って宿題をする】

「まったくか、ほとんどない」のOECD平均は34%であるのに対し、日本は堂々の72%である。2位アイルランドの53%を20ポイント近くも引き離し独走状態となっている。

【IC010Q12:携帯電話やモバイル機器を使って学習ソフトや学習サイトを利用する】

 上の設問と全く変わらない。日本の「まったくか、ほとんどない」の割合は73%であり、2位ベルギーの53%をぶっちぎっての1位である。

当然だが「携帯電やモバイル機器」の部分を「コンピュータ」に変えた設問(IC010Q09, IC010Q11)でも同様の結果となっている。つまり、(直接的にも間接的にも学校教育を原因として)日本の学生はスマホやPCに限らずICT機器全般の利用率が国際的に低いのであり、ICT機器の利用レベルが低いために、携帯電話によって容易にPCが代替されてしまうのである。

いつだったか「スマホで卒論を書く大学生」という風説が流布したが、あれがPC離れを象徴するエピソードとして語られてしまうこと自体が日本のICT教育の現状を端的に示している。スマホで学業をこなせるほど日本の学生がICT機器に馴染んでいればPC離れなど心配する必要は無いのである。

補足

上にも書いた通り、PISAの質問紙調査の結果はわざわざ自分で集計せずともOECDのホームページでExcelファイルが提供されている。しかし、(compendiaに)公開されているデータと舞田が示しているデータには若干の誤差がある。その理由の一つは舞田が無回答を除く利用率を出しているからであり、もう一つは舞田が適切なサンプルウェイトを利用していないからである。

PISA調査を分析する際のウェイトの重要性については以下の資料を紹介するに留める。

ともあれ、PISAのデータを分析するならばサンプルウェイトの利用は必須であり、仮にも教育社会学者を名乗る人物がその基本すら押さえていないことには失望せざるを得ない。私が確認した限り、舞田は生徒の回答データをそのまま単純集計している。SPSSSASなどの統計解析ソフトウェアならばウェイトの処理は簡単であるし、Rで分析するとしてもintsvyなどの定番パッケージを使えば意識せずともウェイティングされるというのに、一体舞田はこれまでどうやってPISAのデータを分析してきたのか。

続き

*1:後述するが舞田が提示したデータは不正確である。正確なPC利用率(無回答含む・ウェイト調整済み)はPISA2009:44%, PISA2018:35%となっている。

*2:

https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/joho_tsusin/policyreports/japanese/papers/98wp1-3-1.html